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高潔なる政治家、コリン・パウエルの死と「歴史のif」
黒人初の国務長官になったパウエル REX/AFLO
<84歳で死去した黒人初の米国務長官。過ぎ去りし日への郷愁と「パウエル大統領」への想い>
数々の「史上初」を成し遂げたコリン・パウエルは、現代国際政治の歴史に間違いなく名を残す人物だ。
黒人を奴隷にするという罪の上に築かれたアメリカ合衆国において、いまだに黒人への差別と偏見がまかり通る時代に少年期と青年期を送ったパウエルは、黒人として初めてアメリカ軍の制服組トップ(統合参謀本部議長)とアメリカの外交トップ(国務長官)に上り詰めた。
10月18日、パウエルが84歳で死去し、その訃報が流れると、多くの人が故人の人格と知性、そして勤勉さと優しさをたたえた。「パウエルのルール」と呼ばれる13の指針は、その人柄に裏打ちされた素晴らしい人生訓として知られている。
しかし、私たちはこの偉大な人物に惜しみない賛辞を送りつつも、故人の存在と言葉を永遠に失ったことへの悲しみに加えて、過ぎ去りし日々への郷愁と胸の痛みを感じずにいられない。
21世紀のアメリカの歴史を振り返ると、パウエルにまつわる「歴史のif」にどうしても思いをはせたくなる。
過去半世紀で最大の外交上の失敗とも言うべき2003年のイラク戦争は、イラクのフセイン政権が大量破壊兵器を保有していると、パウエルが国連安全保障理事会で報告しなければ起きなかったに違いない。
パウエル自身はこの戦争に懐疑的で、開戦に強く反対したが、1人の忠実な軍人としてアメリカの情報機関と軍最高司令官である大統領の判断を尊重した。パウエルは自身の完璧な信用をイラク戦争開戦のために用いたのだ。
戦争は泥沼化し、アメリカの地政学的な力とソフトパワーが大きく損なわれた。アメリカは、それによる国家の衰退からいまだに立ち直れていない。イラク戦争は、パウエルの偉大さ故に起きた戦争だったと言えるのかもしれない。それほどまでに、パウエルは素晴らしい人物だった。
もし1996年の大統領選に出馬していれば、現職のビル・クリントンを大差で破って当選していただろう。この年の大統領選で再選されたクリントンに不倫スキャンダルが持ち上がり、対立陣営から猛攻撃が加えられた。
もし、謹厳実直なパウエルが大統領になり、ホワイトハウスがこのようなスキャンダルに汚染されていなければ、アメリカが今日のようなイデオロギー対立に引き裂かれることはなかったのではないか。トランプのような高潔さの対極にある人物が大統領に選ばれることもなかったのではないか。そんなふうに思いを巡らせずにいられない。
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