コラム

大谷かジャッジか......MVP論争の裏事情

2022年09月07日(水)14時15分

特にピッチングでは今シーズンさらに進化した大谷翔平 Jayne Kamin-Oncea-USA TODAY Sports/REUTERS

<大谷の投打の成績は昨年同様に超一流だが、ジャッジの「本塁打61本」超えには特別な意味がある>

アメリカでは、メジャーリーグを構成するアメリカン・リーグ、ナショナル・リーグのMVP(最優秀選手)のタイトルは、大きな価値があります。1度でも獲得すれば、球界の頂点を極めたこととなり、野球の歴史に残る、つまり全ての野球ファンの記憶に残るからです。

ちなみに、二刀流(ツーウェイ)として唯一無二の存在である大谷翔平選手は昨年2021年のアメリカン・リーグのMVPに満票で選ばれました。成績は、先発投手として9勝2敗、防御率3.18、打者としては本塁打46本、打点100、つまり投打の両方で超一流の成績を残したことが評価されたのです。

その大谷選手の今年の成績は、現地9月5日終了の時点で、投手としては11勝8敗、防御率2.58、打者としては本塁打32本、打点85と前年度同様に投打ともに超一流の成績を維持しています。特にピッチングに関しては、安定度が大きく増しており、少ない球数で多くのイニングを抑えています。

その結果として、現時点では「規定投球回」と「規定打席」の双方に達しています。ですから、野球専門のTV局、MLBネットワークの放送で常に画面下に表示される個人成績では、「本塁打、打点、防御率、奪三振」の4部門で「ベスト5」に名前が表示されるという現象が起きています。前代未聞の事態です。シーズン通算でも双方を達成する可能性があり、だとすればこれは大変なことです。

ところが、今年のアメリカン・リーグには、強力なライバルが登場しています。ニューヨーク・ヤンキースのアーロン・ジャッジ選手です。もちろん、二刀流ではありませんが、現時点では、本塁打54本、打点117と圧倒的な強打を見せつけています。そこで、アメリカのスポーツメディアでは、アメリカン・リーグのMVPは大谷か、ジャッジかという論争が日々ヒートアップしています。

投打共に驚異的な大谷の成績

まず、大谷選手については数字的には、全く文句のつけようがありません。現時点でも驚異的な数字だからです。仮に規定投球回と規定打席の双方を達成して、なおかつ勝ち星を2つ程度上乗せし、防御率を微増程度に抑え、ホームランを35〜38ぐらいに伸ばして打点を限りなく100に近づけたとしたら、それだけで超絶的な成績になります。ジャッジの存在がなければ、文句なしにMVPです。

一方で、ジャッジの場合は、現時点ではやや有利と言われていますが、極めて具体的な2つの目標が基準となる、そんな暗黙の合意ができつつあります。

1つは「本塁打61本」という数字です。これはアメリカン・リーグの年間本塁打記録として、ジャッジの大先輩であるヤンキースのロジャー・マリスが1961年に達成した記録です。この数字の意味は重く、仮に上回れば、MVPはほぼ当確になると言われています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英消費者信頼感、11月は3カ月ぶり高水準 消費意欲

ワールド

トランプ氏、米学校選択制を拡大へ 私学奨学金への税

ワールド

ブラジル前大統領らにクーデター計画容疑、連邦警察が

ビジネス

カナダ、63億加ドルの物価高対策発表 25年総選挙
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story