コラム

大谷翔平選手が審判団と「妥協」すべきでない理由

2021年09月01日(水)16時30分

ただ、プライドの高い審判団は、自動判定だけでなく、ストライク・ボールの判定については、「レビュー」の申し立ても拒否しており、現在はこう着状態です。その一方で、野球人気が下降ぎみの中で、時代の圧力としては「もっと正確な判定」をしないと「やがて判定は機械化されてしまうぞ」という雰囲気は確かにあります。

そんな中で、大谷選手が特に誤審の被害に遭っているのには、これは全くの私の私見ですが、審判団の中で「オオタニはやりにくい」という一種の申し送りがあるのではないでしょうか。

と言うのは、大谷選手は「自分のストライクゾーン」を持っていて、それを態度に表しているからです。現在のアメリカの審判の多くは、そのような態度を嫌います。例えば、大谷選手が投手の場合に明らかなストライクをボール判定されると、同じところに投げて確認するということをします。

そうすると、審判は気分を害してストライクゾーンをより厳しく見るようになるのですが、それでも大谷選手は妥協はせず、判定がおかしければ「首をひねる」など「退場にならない範囲」で不満を態度で表しています。打者の場合もそうです。そのくせ「極めて礼儀正しい」のですから、審判としては「やりにくい」のは間違いありません。

「二刀流」故のこだわり

大谷選手は「正義感」から審判団に対抗しているのかというと、それは違うと思います。では、日本の客観的なゾーンに慣れているので、アメリカの「主観的な判定」に違和感を感じているのでしょうか? それは多少あると思います。

ですが、それ以上に大谷選手が「絶対的なストライクゾーン」にこだわるのは、他でもない「二刀流」だからだと思います。投手として先発しながら、打者としても打席に立つということは、審判にストライクゾーンを広げられたら打者としては困るし、反対に狭くされたら投手としては困るということになります。つまり「二刀流」の選手からすると、審判には「もっとしっかりして」ルールブックにある通りの、そして最新の機械判定の結果に負けない精度での判定を期待するしかないわけです。

つまり、大谷選手は、個人的な感情というよりも「二刀流」の立場から、審判により客観的な判定を求めている、そう理解することができます。仮にそうであるのなら、その態度は、MLBの他の選手たちの利益にもなるし、野球人気を維持するための適切な改革を促すものになると思います。そう考えると「妥協」の必要はないと思います。

<お知らせ>
コラム筆者の冷泉彰彦氏が日本時間9月10日21時からトークライブを開催します(テーマ:911の20周年と、政局の最新状況を語りつくす)。詳細はリンク先の情報をご覧ください。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上

ワールド

ガザ支援搬入認めるようイスラエル首相に要請=トラン

ワールド

EU、米と関税巡り「友好的」な会談 多くの作業必要
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 3
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 9
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story