コラム

テレワークが定着した今、米企業は社員を出勤させられるか?

2021年07月07日(水)16時00分

一方で、働く側にとっても子育てとキャリアの両立、通勤時間からの解放による時間の有効活用など、在宅勤務のメリットを感じる層がどんどん増えてきています。特に30代以下の人々は、世代的に極めて強い在宅勤務志向を持っていると言われています。

ですが、ここへ来て社員に対して「オフィスに戻れ」という指示を出す企業が出てきました。

例えばシリコンバレーの中では、6月上旬にアップルは、秋の時点で「月曜日、火曜日、木曜日は出社」とする方針を、クックCEOが全従業員に通知しました。

また巨大銀行であるJPモルガン・チェースは、ダイモンCEOが「パンデミックはバックミラーの彼方に去りつつある」として「我々の仕事の流儀に戻るべき時だ」と宣言。この7月から基本的に全従業員をオフィスに戻すとしています。監査とコンサルの大手であるPWCも同様にオフィス業務を中心とするとしています。

その理由については様々な言い方がされていますが、アップルなどシリコンバレーの企業の場合は、在宅では「生産性が良すぎる」ので、もっと「長期的な夢などを語る対面コミュニケーションも必要」「英語非ネイティブなどを包摂し多様性を尊重したコミュニケーションには対面の方が有利」などという理念的な原則論が多くなっています。

働き方改革はどうなる?

JPモルガン・チェースの場合は、元来が営業力重視の社風があることから、大規模な投資案件などの商談では、決定権のある当事者との対面営業がリスク回避、パフォーマンス追求の上で必要だということのようです。またPWCなど監査業界の場合は、監査対象の不正を見抜くには対面で事実を追及しつつ、資料の山と格闘するのが仕事の原点となっていると考えられます。

ですが、こうした企業の姿勢は不評を買っています。アップルの場合は、従業員有志80名が連名で抗議文を発表し、「オフィスに戻る必要があるかは、一律ではなく現場の判断」とすべきであり、「そもそも対面にこだわって来た社風は見直すべき」という主張をしています。

同じシリコンバレーでも、フェイスブックやツイッターは、従業員に対して「永久に在宅勤務を保証する」としていますし、グーグルも多くの職種について在宅勤務を保証するとしています。アップルの場合は、こうしたライバルの動きも気になると思われます。

ワクチン頼みとはいえ、感染拡大について当面は抑え込んだ格好のアメリカ社会ですが、この1年3カ月にわたる「ほぼ100%在宅勤務」という経験を活かして「さらなる働き方の改革」へと進むのか、それとも一旦はオフィスに人を戻すことができるのか、この夏から秋の動きが注目されます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story