コラム

結局は「コロナか? 経済か?」が争点だった米大統領選

2020年11月05日(木)15時40分

終盤になってトランプ票が湧いてきた背景にはバイデン陣営の思惑違いもあった Kevin Lamarque-REUTERS

<コロナ感染が再び拡大するなか、人々が最も恐れたのは失業や店舗休業、経済ダメージだった>

今回2020年の大統領選は、選挙結果の確定には相当に時間がかかると思われます。僅差であれば混乱必至ということは、事前に言われていましたが、本稿の時点(日本時間5日正午)ではペンシルベニア、ウィスコンシン、ミシガン、ネバダ、アリゾナ、ノースカロライナ、ジョージアの7州が僅差となっており、結果として大統領選全体も僅差となっています。

各メディアは、続々と各州ごとの当確を打っており、現時点ではバイデン候補が選挙人数264に達しているとされています。現地時間の5日(木)にほぼ票が開くネバダ州(選挙人数6)に勝利すれば、選挙人数270に達してバイデン候補は当確になります。

けれども、4日の未明に宣言したように、トランプ大統領が法廷闘争を含めて徹底抗戦するとなれば、選挙結果の確定は遅れるでしょう。すでにウィスコンシンでは再集計を要求、ミシガンでは訴訟を起こしています。メドとなるのは12月14日で、この日までには各州選挙人の投票が必要です。例えば2000年のフロリダ州における「ブッシュ対ゴア」の戦いが再集計となったケースでは、この日付の直前まで混乱が続きました。

法廷闘争の展開については、あまりに複雑ですので、現時点では具体的な展開の予測は難しいのが事実です。それはともかく、今回の選挙では世論調査をはじめ、多くのメディアや専門家による事前の予想が大きく外れました。2016年もそうでしたが、外れ方はそれ以上でした。

一部には、トランプ支持者の多くは「シャイ・トランパー(隠れトランプ支持者)」、つまり世論調査に対しても、社会的にもトランプ支持を隠していたという説があります。また、彼らは、世論調査を撹乱すれば「大手メディアはフェイクニュースだ」というイメージを広めることができる、そこで組織的に世論調査に対して虚偽の回答を行った、そんな説も語られています。

コロナによる経済崩壊の恐怖

その一方で、3日の投票日直前におけるトランプ大統領の追い込み、特に激戦州を精力的に飛び回り、相変わらず過激なトークで話題を提供し続けた、一種のエネルギーが一気に支持者を拡大した、そんな見方もあります。

ですが、実際に起きていたのはもう少し単純なことだったように思えます。

それは、「コロナへの恐怖」が記録的な投票率となって、トランプの票に大きく上積みされたということです。

ただし、恐怖といっても「感染が怖い」というのではありません。そうではなくて「感染拡大が再び深刻になってきた」という情勢を踏まえて、このままでは「ロックダウンで職を失う」「自分の店が休業を余儀なくされる」「地域の経済が衰退してしまう」といった「恐怖」です。

フロリダのヒスパニック票、ジョージアの黒人票、オハイオとミシガンのブルーカラー票など、従来は民主党の票だと思われていたグループから、相当数のトランプ票が出たし、地区によっては2016年以上の勢いとなったのはこのためだと思います。人種問題よりも、当面のコロナと経済のことを考えてトランプに入れるために投票所に足を運んだのです。

この点では、バイデン陣営にもミスがありました。「マスクをして自分と周囲の命を守れ」というメッセージは、ヨーロッパ、アジア、アメリカの東西沿岸部では当たり前でも、米中西部や南部では受け止め方が異なる、この点への危機感が足りなかったのだと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック上昇、トランプ関税

ワールド

USTR、一部の国に対する一律関税案策定 20%下

ビジネス

米自動車販売、第1四半期は増加 トランプ関税控えS

ビジネス

NY外為市場=円が上昇、米「相互関税」への警戒で安
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story