コラム

戦没者を侮辱するトランプ、その発想をどう理解すれば良いのか?

2020年09月08日(火)17時30分

一つの考え方は、第1次世界大戦もベトナム戦争も「民主党の戦争」だから価値を認めていないという可能性です。ですが、トランプは共和党のブッシュの始めたアフガン戦争やイラク戦争にも批判的ですし、ブッシュ、チェイニー、マケインといった共和党の軍事タカ派については、産軍共同体の手先という言い方でまるで左翼の反戦主義者のような批判をしています。

それではトランプは平和の使徒なのかというと、それも違うようです。目的のためには手段を選ばず、暗殺も、空爆も、紛争状態のエスカレーション扇動も、同盟国への侮辱や切り捨ても平気で行うなかには、平和主義のかけらもありません。

そんなトランプについては、2つの仮説をもって理解するしかなさそうです。

1つは、極端なまでに自己中心だということです。世界の中では「アメリカ・ファースト」なので、欧州のトラブルに関与したり、ベトナムで反共産主義作戦をしたりというような「他国のために米軍が戦う」ことの意義を全く認めないわけです。またアメリカの中では「自分ファースト」ですから、自分が国家の犠牲になるという発想が理解できない一方で、過去にベトナム徴兵逃れをした自分を正当化しているわけです。

もう1つは、徹底した権威破壊です。トランプのコアの支持層は高い教育を受けるチャンスを放棄し、結果的に社会の中で怨恨を抱いているような人々です。そうした人々にとっては、ウォール街やシリコンバレーの成功者、人権や多様性について説教してくるリベラルなどとともに、戦没者や負傷米兵などが「英雄視」されることについても、その権威を破壊して見せると「スカッとする」のだと思います。

別の言い方をするのであれば、英雄視されている存在である戦没者を「負け犬」だとおとしめることで、自他ともに「負け犬」だと思っている層に媚びる、そんな作戦という理解ができます。

どちらにしても極端な考え方であり、賛同者は限られるし、それ以外からは相当な嫌悪感を持たれても仕方のない発想法です。大統領が、どのように反論していくのか、それともさらにスキャンダラスな発言が暴かれていくのか、当面はこの問題が大統領選の焦点になりそうです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story