コラム

アメリカ北東部でコロナ感染が沈静化しているのはなぜか?

2020年08月11日(火)13時00分

2つ目は、経済活動再開に対する慎重な姿勢です。ニューヨーク州もニュージャージー州も順次経済活動を再開しており、レストランのテイクアウト営業や屋外での営業、小売店の営業は再開しています。一部のサービス業も許可されるようになってきました。ですが、他州の事例から見て危険だと判断しているようで、レストランの屋内営業と、バーの営業はいまだに禁止が続いています。

これによって経済活動ということでは大きなダメージがあるのですが、それでも感染拡大の温床になるとして止めている、それが効果を上げているのは事実だと思います。

3つ目は、州政府などに権限が与えられていて私権制限を伴う強制措置が取れているということです。例えば、ニュージャージー州の場合、現在は家庭における集会は25人が上限という政令が施行されています。8月上旬には州内のモンマス郡で300人を集めた大規模パーティーが開かれると、警察が出動して解散を命じました。この種のイベントについて、悪質なものは主催者への罰則も適用されています。

こうした私権制限には反対論もありますが、とりあえずニュージャージーでもニューヨークでも機能しており、そうした強権発動をする州政府への信任はされています。

おそらくはこうした3つの要素が複合したかたちで、感染の鎮静化が達成できているのだと思います。陽性率1%未満という数字を見ると、気を緩めるような判断に行きがちと思いますが、少なくともニューヨーク、ニュージャージーの場合は、上記のように準ロックダウンが続いています。

それが効果を発揮しての1%未満なのだと思いますし、おそらくはその点が同じように春先に感染拡大を経験しながら、いまだに鎮静化のできていないカリフォルニア州ロサンゼルスなどとの違いになっているのだと思います。そう考えると、完全に経済活動をオープンして、地域経済の再生を目指すのはまだ先ということになりそうです。

<関連記事:景気はどん底なのにアメリカ株はなぜ上がる?

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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