コラム

米セブンイレブンのホームレス対策は大音量クラシック

2019年09月10日(火)18時20分

悩みのタネは万引き被害とホームレスのたまり場になること Carlo Allegri-REUTERS

<ホームレスのたまり場になるのを防ぐために大音量でクラシック音楽を流したところ、LAとNYでは全く効果が違った>

「セブンイレブン」つまり7時から11時までというブランド名とは裏腹にアメリカのセブンイレブンも24時間営業が主流となっています。では、日本と同じように飲料から弁当、日用雑貨から書籍雑誌といった超多品種を揃えて、ありとあらゆる顧客層を相手にしているのかというと、その点は異なります。

アメリカではタバコとロッタリー(宝くじ)が収益の柱であり、これに飲料やポテトチップなどのスナック類が加わるという感じです。サンドイッチなど中食もやっていますがあまり人気はありません。そんな中で、ターゲットとなる顧客層は限定的です。夜勤の多い職場の近辺であったり、貧困地区に隣接したりといったロケーションが多く見られるのはそのためです。

そうしたアメリカのセブンイレブンにとって、悩みのタネといえば、万引き被害とホームレスのたまり場になることだそうです。この2つの問題はお互いに関連しているようで、「LAタイムス」や「NYポスト」の報道によれば、各フランチャイズオーナーも本部も対策に苦慮しているそうです。と言うのは、ホームレスの人が万引きをするというよりも、敷地内にホームレスを見かけると、店のセキュリティ対策が「ユルい」とナメられて、不心得者による万引きを誘発するからだそうです。

そこで考え出されたアイディアが「クラシック音楽を大音量で流す」という作戦でした。報道によれば数年前から全国で進められているそうで、例えばバロック音楽の「パッフェルベルのカノン」などを、特別に設置したスピーカーで大音量で流すことでホームレスの滞留を防止するというのです。

この作戦ですが、報道によればLAとNYでは全く効果が違ったそうです。

LAでは効果があり、その結果としてホームレスが敷地内に滞留するのべ時間の10%削減に成功し、万引き被害の削減にも効果があったそうです。そのため、フランチャイズ本部が用意するはずの音響機器が品不足となり、一部のオーナーは自費で機材を導入して「大音響でのクラシック音楽」を流し始めているそうです。

一方で、NYでは「効果がなかった」という記事がありました。実際に敷地内に滞留しているホームレスに取材すると、「音楽が鳴ったら、それに合わせてダンスするだけさ」と意に介していなかったそうで、そうした場合は、店も「大音響作戦」を中止しているそうです。

現在報じられている事実関係としては、それ以上のものはありませんが、一つだけ注釈しておかねばならないのは、ホームレスが可視化されている都市は「格差や貧困が問題となっている都市」では「ない」ということです。現在のアメリカでは、多くの都市で(共和党市政などによって)治安などを理由にホームレスの排斥が進んでいます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、トランプ関税発表控え神経質

ワールド

英仏・ウクライナの軍トップ、数日内に会合へ=英報道

ビジネス

米国株式市場=S&P500・ダウ反発、大幅安から切

ビジネス

米利下げ時期「物価動向次第」、関税の影響懸念=リッ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story