コラム

米不正入学事件が、このタイミングで摘発された理由

2019年03月14日(木)15時30分

イエール、スタンフォード、USCといったビッグネームが引っかかったというのは驚きですが、名門だからこそ体育会が軽視され、それゆえにチェックが甘かったり賄賂に乗りやすい風土があったりしたわけで、その隙に付け込んだ犯罪です。

この事件、ではなぜこの3月12日というタイミングで発表されたのでしょうか? 

1つには今年度の大学入試において、極めて重要な「レギュラー・ディシジョン」(早期選考ではなく、全員が無制限に併願できる本選考)の合格発表シーズンの直前で、受験生も保護者も極めてナーバスになっている時期ということがあります。合格発表は3月15日から31日にかけて行われますが、その直前という「最も効果的なタイミング」というわけです。

2つ目には、仮に今回の合否判定において「KEY」の顧客リストに載っていた生徒があれば、各大学としては、何が何でも不合格にしたいはずです。そこにギリギリ間に合わせた可能性があります。

3つ目は、大統領周辺のスキャンダルについて整理した「ムラー特別検察官レポート」の公表が秒読みになっていますが、その発表後になるとニュースが埋もれてしまう危険があるので、このタイミングになった可能性です。

4つ目は、トランプ大統領自身について、大学に入学した際のSATの点数を「何が何でも公表するな」という圧力をかけたという疑惑が浮上しています。ということは、もしかしたら大統領自身もその昔、「UPenn」ことペンシルベニア大学に裏口入学していたかもしれないわけで、検察としては大統領へのプレッシャー効果を計算した可能性もあります。

FBIも加わった大規模な捜査が行われているこの事件は、連邦のマサチーセッツ地区検事局の大々的な会見が大きく報じられるなど、メディアは最大限の扱いをしています。その背後には、検察のタイミング戦略が考えられるのです。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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