コラム

アメリカの部活動は、なぜ「ブラック化」しないのか

2017年07月18日(火)16時00分

もう一つは、多くの活動や組織が重なり合っているという設計です。例えば、スポーツの場合は、通年で活動しているのは陸上部などごく一部です。野球は春のシーズンだけ、フットボールは秋だけ、バスケは冬だけというのが、アメリカの高校生の部活の季節感になっており、反対に運動神経の良い生徒は、3種類ともやっているというケースは多いのです。

ヤンキースの若きスラッガー、アーロン・ジャッジ選手なども3つともやっていたそうで、3種目ともに大学のスカウトが見に来たそうですし、多くのプロ野球選手が高校時代にはフットボールとの「掛け持ち」をしています。反対に、一年中同じメンバーで野球をやっているということはありません。

野球を一年中やりたい生徒も中にはいるわけで、その場合は、「春は学校の部活」「夏休みの地域代表チーム(アメリカン・リジョンなど)」「秋冬の校外活動チーム(東海岸の場合、ベーブ・ルース・リーグ、ルー・ゲーリック・リーグなど)」という具合で、様々なチームに属していくことになります。

音楽もそうで、オーケストラの場合は、学校の中で各パートのトップ奏者になると、顧問の先生から「州中部の代表オケを受けてみたら?」といった示唆があり、入りたい場合はオーディションを受けて挑戦する、さらに州全体のオールスター楽団などもあり、そこでトップを弾いていると受験に有利とか、色々な競争があります。どれも純粋実力主義なので、スキルは個人で練習するなり、個人教授を受けて磨かなければいけません。

【参考記事】地方学生が抱える奨学金ローンの破綻リスク

そんなわけで高校の部活がやたらに長時間になるというのは避けられているのですが、それでも陸上部の熱血顧問とか、フットボールの鬼コーチというのは存在しています。そうした場合、シーズンになると毎晩帰宅が遅い(何時間もかけて公式戦に遠征するので)とか、陸上の場合は一年350日練習があるといった格好で、顧問教諭に負荷がかかるということはあります。

この点に関しては、とにかく「先生の情熱頼み」というところがあり、それだけでは回らなくなっていることから、アメリカでも学校の部活に民間の指導者を導入する動きが始まっています。現在は「スポーツ指導者の公的な資格」制度をどう設計するかが検討されています。

このように校外活動との役割分担を行い、個々の生徒が参加する活動が複数にわたるようにすることで、極端な「ブラック化」を防いでいるのが、アメリカの部活動では特徴的です。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア政府系ファンド責任者、今週訪米へ 米特使と会

ビジネス

欧州株ETFへの資金流入、過去最高 不透明感強まる

ワールド

カナダ製造業PMI、3月は1年3カ月ぶり低水準 貿

ワールド

米、LNG輸出巡る規則撤廃 前政権の「認可後7年以
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story