コラム

トランプ支持者が抱える、ある深刻な分裂

2017年01月19日(木)13時40分

Lucas Jackson-REUTERS

<当初からトランプを支持してきた「民主党的」政策を求める支持者と、選挙戦終盤から勝ち馬に乗った「共和党本流」の間には、志向する政策上、深刻な分裂がある>(写真:今月11日に就任直前の会見に臨むトランプファミリーと政権以降チーム)

 トランプ政権の発足にあたって、非常に気になる点が1つあります。それは大きく異なる2つの支持層に支えられているということです。

 政権運営が好調に推移すれば、この点は大きな問題になることはなく、任期を過ごしていくこともあり得ます。ですが、何か大きな壁にぶち当たるのであれば、この支持層にある「分裂」という問題は大きく立ちはだかり、支持率を低下させ、政権求心力を失うことにも繋がりかねないものです。

 まず、トランプ氏の「コアの支持層」、つまり選挙戦の初期から支持をしてきた層の期待感というのは、次のようなものです。

・アメリカ国内に力強い雇用を回復してほしい。
・医療保険改革によって被った負担増を止めてほしい。
・公的年金は財源を確保して満額支給してほしい。
・退役軍人には手厚い福祉を用意してほしい。
・アメリカのカネを、無関係な外国にバラまくのは止めてほしい。
・具体的には他国の政権交代に介入するような戦争は二度としないでほしい。
・テロの恐怖を拡大するような移民や難民の受け入れを止めてほしい。
・軍事費、薬価などの産業権益にはメスを入れて価格交渉してほしい。
・輸出に不利なドル高は容認しない。
・国民生活に不利なエネルギー価格高も容認しない。

 この支持層はその中核に強いナショナリズムを持っているものの、求めている政策のほとんどは民主党的な「大きな政府論」です。

【参考記事】トランプ初会見は大荒れ、不安だらけの新政権

 これに対して、選挙戦の最後に「勝ちに行く」ことで、乗っかってきた「共和党本流」の人々、政治家とその支持者の期待感は別です。それは、

・オバマ時代の規制を緩和して、大企業などの活動に有利にしてほしい。
・小さな政府論の観点で、国庫負担を伴う医療保険改革を廃止しほしい。
・同じく小さな政府論から公的年金への国庫補填は止め、民営化してほしい。
・民主党の利権になっている退役軍人への福祉にメスを入れたい。
・オバマ時代に弱体化したアメリカの軍事的プレゼンスを回復したい。
・オバマ時代に不遇だった軍需産業、製薬業界に活力を取り戻したい。
・強いドルを志向。
・原油安から脱してエネルギー価格の高値安定へと誘導したい。

 というものです。つまりレーガンからブッシュに繋がる共和党的な政策というわけです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story