コラム

動き出したトランプ次期政権、「融和」か「独自色」か?

2016年11月15日(火)16時20分

 そんな中、週明けの14日(月)の午後、オバマ大統領が記者会見をして、「トランプ次期大統領との引き継ぎ打ち合わせの様子」について、自分の言葉で語りました。その中で、オバマは「トランプ氏はイデオローグではなく、現実主義者」と一定の評価をしていました。

 同時にオバマ大統領は、会談の中でトランプ氏が「自分に対して、NATOにはしっかり関与すると明言した」として、「私はその旨を欧州の各首脳に伝える」と言明しています。オバマ大統領としても、必死になって「融和」を既成事実にしようとしているのだと思います。

 一方で「独自色」としては、「妊娠中絶の合憲判断」を覆す方向に改めて賛成を表明するといった右派的なトーン、さらにロシアのプーチン大統領と早速電話会談(内容は不明)するなどの動きも見せています。

【参考記事】トランプ政権を生き残るアメリカ民主主義の安全装置

 また、気になる政権人事が動き始めています。ここでも「融和」か「独自色」か、という2つの要素が交錯していると言っていいでしょう。まず「融和」としては、保守系の優秀なブレーンをどう使いこなすかです。すでにワシントンでは多くの「共和党主流派系」人材が次期政権への売り込みを開始しているわけですが、そこからしっかり一流を見抜いて抜擢できるかどうかが鍵になると思います。

 その意味で、政権移行委員会のトップに据えていたクリス・クリスティ知事(ニュージャージー州)を更迭して、マイク・ペンス次期副大統領を任命したのは一種の「融和」と見ていいでしょうし、共和党全国委員長として選挙戦の際に、陣営と共和党の主流派の間を取り持ったラインス・プリーバス氏をホワイトハウスの首席補佐官にするというのも、その流れになると考えられます。

 一方で独自色ということでは、14日に明るみになったスティーブン・バノン氏をホワイトハウスの首席戦略担当にという人事は、メディアから一斉にバッシングを受けています。バノン氏は「ブライトバイト」という「オルタナ右翼」サイトの主宰者で、選挙戦後半の選対委員長を努めた功労者です。ですが、KKKといった「白人至上主義」の団体からも支持される筋金入りの「オルタナ右翼」だということで、ホワイトハウス入りには激しい抵抗感を持つ人が少なくありません。

 ここまで反対が大きいと、この人事は潰れて、バノン氏は他の論功行賞的なポストに横滑りするという可能性もあります。しかしそこはトランプ氏ですから、もしかしたらこの人事だけはゴリ押しするかもしれません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF

ワールド

イスラエル、ガザで40カ所空爆 少なくとも43人死

ワールド

ウクライナ、中国企業3社を制裁リストに追加 ミサイ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 9
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 10
    トランプに弱腰の民主党で、怒れる若手が仕掛ける現…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story