コラム

人種対立暴動の背景にある3段階の差別とは

2014年11月27日(木)13時41分

 あくまで推測ですが、カルチャーや言語の違いから来るコミュニケーション・エラーの結果、「無理解による誤った恐怖」を感じてしまった、仮にそれが事件の背景にあるのであれば、これは「第2の差別」と言えます。

 一方で、警官の側を支持する人々の心情には「逆差別」の感覚、つまり「合法的な正当防衛なのに、それに対する抗議デモが正義であるかのように報道するのは逆差別だ」というような感覚があると思われます。要するに「白人が白人を撃てば正当防衛だが、白人が黒人を撃つと人種問題になるのは、白人への逆差別だ」という感覚です。

 これは相当程度に主観的な問題であり、人によって見方が異なります。例えば、抗議行動を支持する立場としては「射殺にいたったのは人種偏見が大きな要素としてあるのだから、白人が白人を撃ったケースとは違う」という強い思いがあるわけです。要するに黒人の人命が軽視されているというのです。

 ですが、警官を支持する人は「白人の方が悪者にされて損だ、むしろ被害者だ」という理解になります。この「逆差別論」というのは、実は人種分断の大きなファクターであり、結果的に社会全体が差別を克服する障害となります。これを「第3の差別」としてもいいでしょう。

 今回の事件は、「第1の差別」つまり「差別する人」が「優越と侮蔑の意識を持って」被差別者に暴力を加えたわけではありません。また白人が「優越」であるから不起訴になったわけでもありません。

 事件そのものにおいては「言語とカルチャーの無理解」から来る「誤った恐怖心」つまり「第2の差別」が悲劇を生んだと推測されます。また、結果として全国に広がった抗議行動に対する賛否が激しく二分されていることには、「差別する側」が「逆差別の被害者」だと感じることで差別の根絶が阻害される「第3の差別」が作用しているように思われます。

 どの社会でも、20世紀を通じて「第1の差別」を克服する努力は進みました。ですが、その先にある「第2の差別」、「第3の差別」というのは、色々な形で多くの社会に残っているように思います。そう考えると、この問題は決してアメリカだけの問題とは言えないのではないでしょうか?

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story