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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
福島第一原発事故、「ベント」問題の背景にある疑問とは?
事故発生直後は、私はプリンストン大学関係の核物理の専門家の人々とディスカッションを続けながら、アメリカでの見方をこの欄を中心にレポートしてきました。その後は、一旦事態を静観していました。ですが、ようやく「工程表の第1ステップ」が確認できる状況に近づいたという発表も出たこの時期、改めて未解決の疑問点についてお話ししたいと思います。
何よりも、日本のエネルギー政策や、原子力技術の輸出の継続など、大きな方向性の決定を行うためには、今回の事故の原因と経過について、客観的な評価を確定することは極めて重要ということもあります。
いまだに気になるのは「ベント」の問題です。ベントはどうあるべきで、実際はどのようにされたのか、あるいはされなかったのか? 水素爆発時の放射性物質飛散がたいへんに広い範囲に及んでおり、様々な被害が議論されるようになった現時点で、改めてこの問題は重みを持ってきています。
この問題に関しては、私は事故発生直後から「GEのこのタイプの炉では、ベントを建屋内に行って圧力容器の水蒸気爆発を防止するのは仕様」という主張を繰り返し紹介してきました。米国での報道はこの見解で一貫していましたし、専門家とのディスカッションでもそうでした。
何故「建屋内」にベントする仕様になっているのかというと、放射性物質をいきなり外気に放出はしたくないからと考えられます。微量の放射性物質漏洩の際に、ダイレクトに環境を汚染するのではなく、建屋の上部にベントして、これを「五重の壁の最後の砦」とする、そうした設計になっているという見解です。
また万が一、建屋内にベントして水素濃度が濃くなった場合は、建屋の上部で爆発が起きたら建屋の上部が吹き飛んで衝撃を吸収するようになっているというのです。事故前の写真、あるいは建屋の破壊のなかった2号機の写真を見れば分かりますが、建屋の外壁の色は上の3分の1だけ異なっています。これは、構造を上3分の1だけ「鉄骨と薄い板」にしてあるので、そこが壊れることで爆発の衝撃波を吸収して建屋の下半分を守る、それも設計上の仕様だというのです。
これは、スタンフォード大学の国際安全保障協力センターの客員で、仏アレヴァ社系列の燃料処理企業の現役の幹部、また元IAEAの研究員であったアラン・ハンセン氏が3月にスタンフォード大学の公開セミナーでハッキリそう発言しており、同氏の示したスライドでは、そのプロセスが図示されています。アメリカでの報道は、この発表とスライドを踏まえたものが多いと思われます。例えば、CNNが3号機の水素爆発を「中継」していた際に、リアルタイムでマサチューセッツ工科大学、セキュリティ研究プログラムのジム・ウォルシュ研究員がこのハンセン見解に沿った解説をしていました。
ただ、最近の日本の報道では、このハンセン見解は、スタンフォード大学の発表と言うよりも「アレヴァ社の観点からGE炉を批判するバイアスの入った見解」という言い方がされているようです。いくら何でも、ビジュアル的にネガティブな印象を与え、それ以前に大規模な放射性物質飛散を「タイミングと方向をコントロールできない偶発的な水素爆発で」起こしてしまうというのを「仕様」だとするならば、GEの「マーク1」は欠陥炉ではないかということになるからです。この指摘は一理あると思いますし、大規模な放射性物質飛散で広範囲な被害が確認されている現在では、そう考えるのには十分な理由があるように思います。
そこで、現在は、東電も安全・保安院も「ベントは排気筒にしようとしたが、停電等の理由で弁が作動せずに上手くいかなかった」という説明で一貫しています。ただ排気筒にダイレクトにベントするというのは、水素爆発の危険は防止できますが、環境に高濃度の放射性物質を意図的に排出することになるわけで、風向きなどを見ながら高度な判断が必要となるわけです。政府・東電としてはそうした判断をしようとしたが、弁が動かずに失敗したというのが公式見解のようです。
ですが、ベントができずに圧力容器(原子炉の釜)そのものの圧力が高まり、水蒸気爆発が起きて釜が割れてしまっては「この世の終わり」になります。そこで、排気筒がダメならということで建屋上部にベントした、あるいは排気筒が使えない場合は、自動的に建屋上部にベントすることになったと推測されます。この部分、どこまでが判断の介入する余地があり、どこまでが仕様かの解明が必要です。
その結果として、1号機、3号機の場合は建屋上部での水素濃度の上昇、そして水素爆発ということになったわけですが、問題は2号機です。2号機では、建屋上部での水素爆発は回避されました。その理由としては、建屋上部海側にある「ブローアウトパネル」が開放され、水蒸気や水素が外気に排出されたことの成果のようです。確かに2号機では建屋上部に四角い開放箇所があり、現在でも映像で確認できます。このパネルが開いたことで、上部の水素爆発が回避されたと見るのは正しいようです。
ですが、それでも疑問が残ります。炉の冷却が上手くいかない中で、また全電源喪失という状況の中で、どうやってパネルを開放したのでしょうか? アメリカの報道の中には「決死隊」が行ったというような「見てきたような」解説があるのですが、日本では一切発表されていないようです。また、それ以前に2号機では開放された「ブローアウトパネル」が1号機と3号機ではどうして開かなかったのか、という疑問も残ります。
問題を整理してみましょう。仮に、この「GEマーク1」という炉が全電源喪失時には燃料棒破損を起こすとします。その際に、水蒸気爆発を防止するためにベントするとして、同じく全電源喪失時には「排気筒からのベント」が不可能であり、建屋上部に排気するしかない、その建屋上部で水素爆発が起きるのを防止するには「ブローアウトパネル」を開放するしかないが、全電源喪失時にはマニュアル対応となり「決死隊」が必要だとします。仮にそうであれば、この炉は「欠陥炉」ということになります。
アレヴァ社のハンセン氏が言うように「それが仕様」なら、同型炉に関しては大きな改修が必要になると思います。もしかしたら、米国でこの問題に関する「アレヴァとGE」「政府と原発運営企業」の間で論争があるのかもしれません。そうした雑音に影響されることなく、逆にそうした論争に客観的な決着を与えるべく、まずは事実の解明を進めるべきです。
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ブログの筆者・冷泉彰彦氏が日経CNBCで本日(22日)午後9時30分より放送の「NEWS ZONE」にゲスト出演します。
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