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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
グーグル問題でオバマはどこまで「本気」か?
本コラムの1月15日のエントリでお話した、中国当局とグーグルとの論争は、中国側が一歩も退かない中でグーグルも「検閲拒否」の主張を貫き、中国本土内での検索サービスから撤退することになりました。今後グーグルは同等のサービスを香港から提供することになり、中国政府との争いは本土と香港の間での接続妨害という形で今後も続いていくことになると思われます。
この問題では、グーグルの姿勢にはオバマ政権の支持があったのは明らかです。この間のオバマ政権は、ダライ・ラマとの会談を行い、また台湾へのPAC3等防御的兵器の供与を行うなど、中国との緊張を高めているようにも見えます。では、オバマはこの問題でどこまで「本気」なのでしょうか?
3点指摘したいと思います。
まず「民主党のアメリカ」は親中、「共和党のアメリカ」は親台湾という対立構図がひっくり返ったということです。F・D・ルーズベルトのスターリンとの同盟以来、90年代のビル・クリントン政権までは、漠然と民主党は容共、共和党は反共という図式の延長で来たのですが、ここへ来てオバマ政権はハッキリとこの対立軸を組み替えてきたということです。
背景にはブッシュ政権の米中蜜月にあった「理念は同床異夢だが、米国債や通商と軍事では利害が一致」というマキャベリズムへの反動があると思います。また、中国が共産主義とは名ばかりで、大衆拝金主義を抱えた巨大な開発独裁に変容した、もうリベラリズムの延長では理解できないという認識もあるでしょう。
私の近所のビジネスマン達に聞くと、税金が嫌いで共和党支持の人に限って「中国出張は食事が楽しみ」とか「中国の温家宝は人格者でみんな言うことに従っている」などと平気で言いますが、民主党系の人になると、かなり親中派の大学教授などでも「ここまで経済成長したのに、アナクロな情報統制を続けるのには絶望した」というようなことを言います。とにかく共和党=親中、民主党=嫌中というように軸がひっくり返っているのは事実です。
2点目は、言論の自由などの「価値観外交」への本気度です。アメリカがこうした姿勢を見せると、過去の人権外交、反共十字軍(古い言葉ですが)などを思い出してしまいます。そこにあるのは、原理主義ともいうべき一方的な価値観の押しつけであり、恫喝にも似た横柄な口調であり、軍事戦略と連動した覇権主義でした。もっと言えば、悪玉を決めつけて武力で威嚇するための口実に理念的な物言いがあったとすら言えます。
ですが、今回の「中国への圧力」は少しニュアンスが違うと思います。それは、中国がこれ以上の経済成長を続けるには、物真似ではなくソフト産業も含めた高付加価値創造のための自発的な文化が必要だし、これ以上消費を拡大するには同じように目の肥えた自立した消費者が必要、また食の安全など短期的利益と社会正義を両立するには厳罰主義ではなく自由なジャーナリズムが必要、という極めて実務的な観点から、堂々と外圧をかけてきたのだと思います。
中国の自由化、民主化が革命や内戦といったハードランディングではなく、漸進的なソフトランディングでなければいけないという前提に立って、それでも必要なキッカケ作りの第一弾として、とりあえず言いたいことは言っていくという認識とも言えるでしょう。
第3に、ではどうしてそのような価値観論争と同時に台湾への武器供与を行うのか、そこには覇権主義や軍事利権があるのではないか、という疑問があります。ですが、ここでもオバマは、過去のアメリカのような愚を犯すことはなさそうです。つまり、あくまで抑止型のバランス思考であり、東シナ海での、あるいは台湾海峡での中国軍のプレゼンス増大に対するバランス維持のためのテクニカルな対策として、タイミングを計っていただけだと思います。
以上の3点から、オバマの姿勢は「十分本気」であるけれども極めて冷静で実務的なものだと言って良いと思います。中期的には李克強、習近平という次期リーダー候補に対して、キミ達の世代になったら、確実に中国の社会を一歩ずつ解放に向けて進めてくれ、そんなメッセージだとも言えるでしょう。
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