コラム

トヨタ叩き? それとも日本叩き?

2010年02月05日(金)12時28分

引き続きトヨタの問題ですが、確かに昨日からはプリウスの問題も含めて「トヨタ叩き」は更に激しくなっています。新聞、TVも最大限の扱いです。その背景には、漠然とではありますが、アメリカの自国産業重視の保護主義的なムードがあるのも事実です。では、一般の世論のレベルで日本叩きあるいは、日本のイメージ失墜が起きているのかというと、必ずしもそうではないと思います。

 例えば、他でもないハイチ出身の黒人カーデザイナーのラルフ・ギレスという人は、新生クライスラーの「ダッジ」部門のCEOに任命されて「時の人」になっているのですが、このギレス氏がNBCで語っていたところによれば、「トヨタのスキャンダルで、ダッジのディーラーで来店数が増しているのか?」という点に関しては「ノー」だというのです。「アジアの車(主として日本車のことだと思って良いでしょう)に乗っている人のロイヤリティはなかなか崩せませんね」そうギレス氏は言っていました。ダッジとしては、ハンバーガーの「バーガーキング」のように「マッチョなアメリカ文化」という「ニッチ」を突いて行く戦略に変わりはないということで、トヨタからの乗り換えは期待していないということでした。

 また、自動車の品質評価に関しては、ほぼ絶対的な信頼を集めている「コンシューマー・レポート」誌のデビット・チャンピオン氏(自動車の品質評価担当ディレクター)は、同じくNBCの「トゥディ」で「今回のトヨタの問題は、どれも個別の問題です。それぞれの問題が解決したら、本誌としては改めてトヨタの車をこれまで通り推奨するつもりです」と断言していました。しかも「アクセルペダルのリコール対象車も、当面アクセルの感触に異常がなければ運転しても大丈夫です」とまで言い切ったのです。以前からテスト車は全て自社で購入し、一切の広告を掲載しないことで中立性を保ち、本当に数多くの車をテストしてきたこの雑誌が、このような逆風の中でも日本車への信頼を口にするというのは、やはり大変なことだと思います。

 そんなわけで、今回の問題については、渦中のトヨタは誠実な対応をしなくてはなりませんし、相当の売上減や経費の発生を覚悟しなくてはならないと思います。ですが日本そのものの評判が下がったとか、もうこれで北米市場はダメだ、などという過剰反応をする必要はないと思います。一部には、トヨタの失態とJALの破綻を並べて「日本経済の衰退」云々という論評もあるようですが、これもワシントンの日本通など「過去の良い時代を知りすぎている」人の感慨であって、一般的な米国人の間にそのような印象が広がっているのではないと思います。

 例えば、今回のオスカー各賞の候補作発表にあたって、アニメ部門で宮崎駿監督の『崖の上のポニョ』は候補に入りませんでした。日本からは落胆の声も聞かれますが、これも気にすることではないと思います。というのは、今回のオスカーでは、作品賞のトップランナーと思われる『アバター』(『もののけ姫』+『風の谷のナウシカ』+『天空の城ラピュタ』)にしても、アニメ賞と作品賞候補の『カールじいさんの空飛ぶ家(原題は "UP")』(『ハウルの動く城』+『天空の城ラピュタ』)にしても、宮崎監督へのオマージュとしか言いようのない作品が並んでいるからです。

 その中で、『ポニョ』に関しては、宮崎監督が既に『もののけ姫』でオスカーを獲得していることもありますし、とりあえず見送られたのは仕方がないでしょう。アカデミーとしても、『アバター』が汎神論的な色彩が濃厚である以上、「母なる海」の神秘を描いて似たような世界観を提示している『ポニョ』が並んでは、宗教保守派には少々刺激が強すぎるという計算をしたかもしれません。いずれにしても、現在進行しているのは「日本叩き」ではありません。トヨタが誠実な姿勢で問題を解決してくれれば、まだまだ日本の製品はアメリカの市場に歓迎され続けるように思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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