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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
オバマとハトヤマ、問題は共通? それとも?
アメリカのオバマ政権と、日本の鳩山政権は、同じように国民の「変化への期待」を担って政権を奪取しています。もう少し細かく見てゆくと、中道左派的な票が支持の中核にあって、この層による前任の保守政権からの変化期待をバネにしながら、実際は中道現実主義政権に近い運営で実績を上げようとしている、実に似通った構図を持っています。現時点では双方同じように政権運営に苦労する結果になっているというのも、似ています。
オバマ政権の場合は「反テロ戦争」について、鳩山政権の場合は普天間移設の問題で「本音は思い切りハト派政策に振りたいのに、反対派や現実を考えるとできない」という「困った顔」がミエミエで、結局のところ左からも右からも叩かれている、この構図もソックリです。経済財政の政策で困っている構造も似ています。「大きな政府」を志向しながら「財政赤字」のプレッシャーにグラグラしている、同じような立ち往生の仕方をしているのです。
支持低迷の最も大きな要因が「雇用」だというのも瓜2つです。リーマンショック以来の大不況から抜けだそうとしている今でも、不況を契機に自動化や外注化がどんどん進んでしまったために、景気が反転するスピードと並行して雇用が回復する構造にはなっていない、そのために国民の不安感や反感が増大しているのです。この雇用に関しては、アメリカの場合は柔軟な労働市場が需給を正直に示してしまうために世論が神経質になる一方で、日本の場合は固定化した雇用システムの崩壊が止まらない不安感ということで、表面的な現象は異なりますが、本質は同じと見るべきでしょう。
雇用に関する世論の「怨念」が噴き出している中で、オバマ大統領の場合は「世間離れしたインテリ臭」が反対派に嫌われています。一方の鳩山首相の場合は、富裕な一家の出身ということが同じように批判の対象になっています。ただ、この点に関してはアメリカの右派の間で「アンチ・リベラル」の屈折した情念がメラメラ燃えている状況に比べると、鳩山首相の「富裕であることを恥じるがゆえに脱法行為までして隠そうとした」醜態は、嘲笑の対象でこそあれ、怨嗟の対象ではないわけで、多少は楽な面もあるように思います。
1つ大きな違いがあるのは、アメリカ人は中長期的に見て「アメリカの豊かさ」に根本的な翳りが生ずるとは「全く思っていない」という点です。現在の不況は大変だし、雇用回復にもたつく政権にはイライラするが、アメリカという国のファンダメンタルな部分への不信感はないのです。先進国中唯一の少子化とは無縁の人口動態、そして依然として質量共に分厚い高等教育の生み出す人材力には、確かに中長期の国力を信じるだけの根拠があるからだと思います。一方で、日本の場合は、正にこの点が大問題なわけで、子供が生まれない悩みに加えて、生まれた子供が国際競争力のある人材に成長する可能性も細っているという実感は、社会に濃い影を落としています。
では、オバマ、鳩山、どちらのリーダーの方が「やりにくい」のでしょうか? アメリカ人は中長期的には楽観論です。ですが短期的には悲観で、その点で大統領に激しい不満をぶつけてきています。一方で、日本の場合は短期悲観、中長期大悲観ということになってしまうのですが、鳩山首相にとって楽なのは、先日の「前原=谷垣論争」にあったように「ほとんどの問題は前政権が残した負の遺産」という意識が国民に根強いことです。更にいえば、中長期の悲観論をひっくり返すような「大逆転的な変化」を日本の世論は期待していないのです。これもまた、自民党の構造改革が「マイナスしか残さなかった」という印象を、必要以上に世論が持っているからだと思います。
そんなわけで、オバマ、鳩山の両者を比較して、「どちらが苦しいのか?」という点については、今日現在は「痛み分け」というところです。ただ、今後、緩やかに景気、特に雇用が回復して行くなかで政権の打ち出している「輸出型製造業の復活」に一定の効果が上がれば、オバマ政権には浮揚のチャンスはあると思います。一方で鳩山政権の方は、時間が経過するにつれて、そして新しい政策の結果が見えてくるにつれて、どんどん厳しい方向に追い詰められるでしょう。ただ、自民党の方も「日本らしい日本」などというカビの生えたスローガンを掲げているようでは、高齢者の抵抗勢力票しか集められないわけで、そうなれば過去と未来の双方における自民党の「敵失」で、現政権はこのまま持ちこたえてしまうかもしれません。
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