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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
日本の民主党は「G20」の議論に参加せよ
9月に入って、アメリカでは急速に景気への楽観論が広がっています。FRB(連邦準備理事会)のバーナンキ議長が「景気の底」を指摘したという8月28日あたりがターニングポイントだったようで、中古住宅の値段が下げ止まった(実はアメリカ経済としては重要な指標です)とか、一部の小売チェーンで非常に良い数字が出たりといったニュースが同じ時期に重なると「もう不況の出口が見えた」というアナリストがゾロゾロ出て来ているのです。
街の表情もずいぶん変わってきています。例えば、常に日用品・雑貨を低価格で販売している「ウォールマート」や「ターゲット」はこの不況下にあって、逆に業績を伸ばし、「デフレへの懸念」が真剣に語られる象徴ともなっていたのですが、この2社はここへ来て、ほぼ同時に「PB(プライベート商品)」のリニューアルに踏み切っています。白を基調に「エコ」的なメッセージを込めたデザインもソックリなら、価格を上級移行させる戦略も同じです。この2社の経営陣が消費の戻りが堅調と見ているのは明らかです。
スポーツの世界では、秋の到来とともに、アメリカ人の大好きなNFL(アメリカンフットボールのプロ)のシーズンが始まりますが、「プリシーズン(オープン戦)」の中継も多数が組まれる中、コマーシャルも良く入っているようです。入場料が高く(ほとんどがシーズン券で売り切れ状態)野球以上に「金ピカ」であるNFLですが、こちらも景気回復を先取りしたような雰囲気があります。
野球やフットボールとは違った個人競技ですが、秋口の「全米オープンテニス」もアメリカでは大きな行事です。今年の大会は、女子を中心に番狂わせが多くなっていますが、観客動員は記録的だそうで、大会自体にも「モルガン・スタンレー、レクサス、チェース銀行・・・」といった「金ピカ」のスポンサーがついており、ここにも「リーマン破綻一周年」の影は感じられません。
では、このまま一気にアメリカ経済は、そして世界経済は回復してゆくのでしょうか? このムードに水を差した感じがあるのが、9月4日に発表された雇用統計でした。8月の失業率9.7%という数字は、市場には大きな動揺は与えなかったものの、アメリカ社会には様々な波紋を投げかけています。さて、この4日にはロンドンでG20(先進諸国+途上国蔵相中央銀行総裁会議)が開かれています。
このG20に自民党の与謝野財務・金融相が欠席して、参加したのは副大臣だったということが報道されています。与謝野大臣が行くべきだったという批判的な報道のようですが、私には妙に思えました。このロンドンG20は、今月下旬にアメリカのペンシルベニア州ピッツバーグで行われるG20サミットのいわば実務者会議であり、2つの会議は一体として考えるべきなのです。
であれば、無理をしてでも民主党次期政権は、次期財務大臣をロンドンに派遣するか、あるいは民主党としての「グローバル金融システムへの提言」を書簡として託すべきでした。というのは、今回のロンドンでは銀行などの規制問題、例えば自己資本の問題であるとか、役員への高額報酬などの問題が語られていたからです。
これは単に「景気回復へ向けて」VIPがお互いにエールの交換をしているといった「踊る会議」ではないのです。昨年9月以来の金融危機で大きなダメージを受けた各国が、今後の景気回復過程で、同じようなバブルの膨張と破裂を繰り返さないための「ゲームのルール」を検討しているのです。
民主党支持票の背景には「そのようなグローバル経済そのものが問題なのだから距離を置きたい」という「民意」があるのかもしれません。ですが、高額のインセンティブに引っ張られ、濃縮したリスクをおもちゃにして世界経済を引っ掻き回した「グローバル金融」に対して、日本の次期政権が「批判的観点」を持っているのなら、それを具体化して途上国も含めたG20へ持っていくのは、いまだにGDP総額で世界第2位の地位を占める日本としての義務だと思うのです。
また金融業界の利害ということでも「ゲームのルール」変更に積極的に関与していかなくては、じわじわと「自分たちに不利なルール」に変えられる危険も出てくるでしょう。そして何よりも、ロンドンG20の実質的な論議に加わらなかったことで、ピッツバーグでの鳩山次期首相の「外交デビュー」が実務的な加点の場ではなく、意味のないセレモニーの要素に傾いてしまうことが懸念されます。
メディアにも問題があるように思います。首班指名の際に野党議員が白紙投票するかどうかなどという、全く意味のないことに関心を向けるのではなく、日々動いている国際経済の中で新政権がどう行動するのか、ドンドン突き上げていって欲しいと思うのです。
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