コラム

「トランプお友達作戦」で安倍さん大丈夫?

2017年11月04日(土)17時00分

安倍首相の「お友達作戦」は各国首脳から敬遠されていたトランプには効果抜群 Joshua Roberts-REUTERS

 


171114cover_150.jpg<ニューズウィーク日本版11月7日発売号(2017年11月14日号)は「トランプのアジア戦略」特集。トランプは混沌のアジアに何をもたらすのか。トランプ歴訪とアジアの新地政学をテーマとするこの特集から、パックンによる、ちょっとマジメな「安倍トラ」考察の寄稿を本誌発売に先駆けて転載する>

安倍晋三首相に対して物申すこともあるが、今日は評価している点を2つ挙げる。1つはドナルド・トランプ米大統領対策。2つ目は滑舌。滑舌が悪い僕から見て、こんなに親近感がわく首相って、本当に心強く感じるのだ。

では、1つ目に戻ろう。ちょうど1年前、トランプが米大統領選挙に勝利したことは、おそらく本人も含め、みんなにとって想定外の結果だった。外国の外交筋も、当然ヒラリー・クリントンが勝つと思い込み、トランプとのパイプ作りはほとんどできていなかった上、各国の首脳たちの間ではトランプと少し距離を置こうとする動きが目立った。

そこに安倍さんが金ピカのゴルフクラブを手に、就任前のトランプの元に駆け付けた。パフォーマンスが大好きでいて、常に「ディスられている」とコンプレックスを持っているトランプにとっては、一番ありがたい対応だったと思われる。以前、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領をリスペクトする理由として「僕を褒めてくれたから」と説明したことからも分かるように、トランプは好かれると好きになるタイプ(昔、そういう犬を飼っていた身としては、嫌いじゃない性格だ)。

そんなトランプは、今も続いている同盟国からの冷たい態度は本当につらいはず。メキシコの大統領とツイッターで喧嘩し、オーストラリアの首相と電話で喧嘩し、カナダの首相とは笑顔を保ちながら、力比べなのか、喧嘩なのかよく分からない握手をした。

海外遠征も少し寂しい感じだ。ドイツやイタリアを訪れたときは、あまり歓迎されなかった。やっと7月にフランスを国賓として訪問したが、「トランプ立ち入り禁止区域」を作ったデモで迎えられた。

イギリスのテリーザ・メイ首相は「今度ぜひいらっしゃい」と誘ってくれたが、国内の反発が強くて訪問の時期は来年に持ち越された。メイは女王に会わせる約束もしたが、「陛下に恥をかかせる結果になるため、国賓としての訪英はさせるべきではない」という請願が政府のウェブサイトに出され、総選挙で早めに締め切られたにもかかわらず200万人近くがサインした。メイの誘いは「今度飲もう」のような、空虚な社交辞令に見え始めている。

日本はメディアもお祭り騒ぎ

そんななか、安倍さんは安定的な親しみを見せている。もちろん、ほかの首脳たちとは立場が違う。日本は武力を放棄する憲法を持っている以上、北朝鮮の脅威もあるし、アメリカとの同盟関係は最重要事項だ。しかもそれだけではない。ヨーロッパ諸国と違って、日本国民は移民問題にあまり関心がない。アラブ諸国と違って、トランプに敵対視されているイスラム教徒もほとんどいない。中南米諸国の国民と違って、レイプ犯や人殺し、犯罪者扱いはされていない。

つまり、日本の皆さんがトランプに対してあまり怒っていない。だから、安倍さんは笑顔で楽しくゴルフやご飯会をしても、娘イバンカを異例なほど特別待遇しても、内政への悪影響を恐れる必要がない。G7の中では唯一といっていいぐらい、自由にトランプと戯れることのできる立場だ。

しかも、国民は反発するどころか、お祭り騒ぎで盛り上がっている気さえする。メディアも、「天皇陛下と会見!」「松山英樹とゴルフ!」「ピコ太郎とご飯!」と、訪問中の日程に熱心に食いついているが、首脳会談の目的や内容にはあまりこだわっていない様子だ。

もしかしたら、安倍さんもそんなスタンスをわざと取っているのかもしれない。昨年末、故郷の山口県にプーチンを誘い、大盤振る舞いでもてなした。しかし、期待されていた北方領土問題における進展はほとんどなかったため、首脳会談は失敗とみられた。一方、今回は北朝鮮問題で「歩調を合わせる」以外の目標を掲げていない。「とりあえず仲良くする」ぐらいで成功とみなされるでしょう。個人的には、せめてPPAPと同じぐらいTPPを押してほしいな~と思うけどね。
 
でも、この「お友達作戦」のリスクもなきにしもあらず。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、トランプ関税発表控え神経質

ワールド

英仏・ウクライナの軍トップ、数日内に会合へ=英報道

ビジネス

米国株式市場=S&P500・ダウ反発、大幅安から切

ビジネス

米利下げ時期「物価動向次第」、関税の影響懸念=リッ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story