ヘッジファンドと個人投資家の緊迫の攻防! 映画『ダム・マネー ウォール街を狙え!』
彼は、愛着を持つゲームストップ社が空売りを仕掛けられていることに気づき、5万ドルをつぎ込む。そして、ネット掲示板で自身の持ち株を公開し、ゲームストップ株が著しく過小評価されていると訴える。するとその主張に共感したフォロワーや若者たちがゲームストップ株を買い始め、株価が徐々に上昇し始める。
キースを支持する個人投資家として登場するのは、ペンシルベニア州の看護師ジェニー・キャンベル、推定純資産4万5644ドル、ミシガン州にあるゲームストップの店舗で働くマルコス・ガルシア、推定純資産136ドル、テキサス大学オースティン校に通い、ともに借金を抱えているらしい同性カップルのハーモニー・ウィリアムズとリリ・パリゾー、推定純資産−18万6541ドル、−14万5182ドルといった人々だ。
コロナ禍が映し出す市場の変貌
この前半部からは、株式市場における攻防が社会現象にまで発展する背景が見えてくる。
ひとつはコロナ禍だ。それが様々なかたちで強調されている。本作の冒頭の説明で、ゲイブが私事に気をとられてと書いたが、彼は自宅の隣に建つ空き家になった邸宅を取り壊して、家族用のテニスコートを作ろうとしていたが、なかなか工事が始まらないために苛立っている。そのため、業者と思しき電話の相手に、「これじゃ完成前にコロナ禍が終わるぞ」と不満をぶつける。
キースは、コロナ禍のなかで姉を亡くしたことを動画で告白する。看護師のジェニーが疲弊していることは容易に察せられる。マルコスは店長から「あごマスク」を注意される。
そしてもうひとつ見逃せないのが、前半の終わり近くに、最後のピースを埋めるように登場してくる人物たち。人気の株取引アプリを提供するスマホ証券ロビンフッドのCEO、ブラッド・テネフとバイジュ・バット、推定純資産10億ドルだ。
ふたりは、インタビュー取材を受ける立場で登場する。ロビンフッドは、1ドルから取引ができ、手数料が無料で、スマホさえあればゲーム感覚で気軽に投資できるため、コロナ禍に入って急成長を遂げた。
騒動の前半部では、個人投資家の支持を集めるキースの存在に加え、コロナ禍や投資アプリの影響もあって、ウォール街の巨人対個人投資家の図式が鮮明になっていく。
理想と現実の狭間 ロビンフッドのジレンマ
だが、後半では、そんな図式が揺らぐような事件が起こる。前半に描かれたロビンフッドのCEOへのインタビューは、その伏線になっているともいえる。
ロビンフッドは、この図式にどのように位置づけられるのか。ブラッドとバイジュは、"ウォール街を占拠せよ"の運動に感化され、占拠ではなく民主化したいと語る。
しかし、インタビュアーから、手数料を無料にしてどのように収益を上げているのか尋ねられると、そんな理想が怪しくなってくる。彼らは、PFOP=「注文フローに対する支払い」について語りだす。
彼らの説明は短くてわかりにくいが、いくらか付け足すと、顧客の注文はHFT(高速取引)業者に回送され、業者はコンピュータを使った高速の自動取引を繰り返して利ざやを得て、ロビンフッドにリベートを支払うということになるのだろう。さらに彼らは、その業者が主にシタデル・セキュリティーズで、ケンのヘッジファンドと同じ名前だが別会社だと語ったところで、気まずくなったように話題を変えてしまう。
疑惑の渦中 ロビンフッドとシタデルの裏取引
そんな説明が伏線となり、後半では、ロビンフッドとシタデルの不都合なつながりを疑わせるような事件が起こる。まず、ネット掲示板のフォーラムが突然、閉鎖されて、情報交換ができなくなり、個人投資家たちは混乱に陥る。
さらに、ロビンフッドのアプリでゲームストップ株の買い注文ができなくなり、パニック売りが発生する。そして、シタデルがヘッジファンドを救うために、ロビンフッドに働きかけたのではないかという疑惑が浮上する。
それはもちろん大きな問題だが、スティーブやケンという資産家から支援されたゲイブのメルビン・キャピタルを倒すために、個人投資家たちがロビンフッドのアプリでゲームストップ株を買いまくることで、ケンのシタデルはすでに収益を上げていることになる。
本作は、結束した個人投資家たちがウォール街の巨人を倒すだけの痛快な物語ではなく、ギレスピー監督は、構成や伏線によって問題の根が深いことを示唆している。
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