『美少女戦士セーラームーン』が今なお世界を魅了し続ける理由...さまざまな「コラボ」から30年を振り返る
A 30-Year Obsession
映画『美少女戦士セーラームーンCosmos』では男性アイドルが女性のセーラー戦士に変身する ©武内直子・PNP/劇場版「美少女戦士セーラームーンCosmos」製作委員会
<キティにコンドームに高級ブランド......さまざまなコラボから作品とファンの「成長」をたどってみれば>
『美少女戦士セーラームーン』が世に出てから約30年。その人気が色あせていないことは、ブランドがいまだにコラボレーション商品を出していることからもうかがえる。高級ブランド「ジミー チュウ」のラインストーンがちりばめられたブーツに、オーストラリアのカジュアルブランド「ブラックミルク」のイラスト入りレギンス、限定デザインの文房具などなど......。
シリーズ最終章である映画『美少女戦士セーラームーンCosmos』の6月公開を受けて、私は自問せずにはいられなかった。いまだに私たちがセーラームーンに夢中なのはなぜだろう?
セーラームーンは特別な力を持ち、かわいい衣装を着た女の子が主人公のアニメや漫画、つまり「魔法少女もの」だ。そのジャンルの最初の作品というわけではないが、セーラームーンには人々の想像力をかき立てるとともに、日本アニメを──そして世界のアニメを──大きく、そして永遠に変える何かがあった。
原作は1991年に発表された『コードネームはセーラーV』を原案として、少女漫画雑誌に92~97年に連載された武内直子作の漫画。アニメシリーズの放送も日本では92年に始まった。吹き替え版が世界各地で放送されるようになったのは95年のことだ。
物語の中で主人公の月野うさぎと学友たちは悪の勢力と戦ったり、恋に落ちたり、提出日までに宿題を終わらせようと必死になったりする。つまりセーラームーンの新しさは、少女たちの物語に「スーパー戦隊シリーズ」の特徴を取り入れたところにあった。セーラームーンは基本、女の子の友情と恋の物語だ。だがそこに、各話で新しい怪物が登場し、色分けされたスーパーヒーローたちが活躍するという要素を付け加えたわけだ。
ちなみに原作はいわゆる「少女漫画」だ。少女漫画というのはもともと、対象となる読者を示すマーケティング用語だが、今ではジャンルやスタイルを指す言葉と考えることもできる。
少女漫画であれ少年漫画であれ、展開の速いアクションものから、恋愛ものやSF、異世界もの、サスペンスまでさまざまなジャンルの作品がある。ただ、女の子や若い女性向けの漫画はファッションと結び付きやすいし、最新ファッションに身を包んだキャラクターが描かれることもしばしばだ。
武内も作中でディオールやミュグレー、クリスチャン・ラクロワのコレクションを取り上げてきたことで知られる。最近では、シャネルの23年コレクションを身にまとったセーラー戦士たちのイラストを描いている。
90年代後半にセーラームーンのアニメを見ていた欧米や英語圏の若い女性ファンにとって、セーラー戦士は一種のロールモデルだった。ドラマ『バフィー~恋する十字架~』や『ゼナ:プリンセス戦士』の主人公たちと同様に、プリンセスであることと、誰かをガツンとやっつけることは両立し得ることを示したのだ。
次に戦うべき相手は?
これまでの30年間でセーラームーンは、連載誌の付録はもちろんのこと、企業やブランドとのコラボを通しさまざまなグッズを生んできた。ユニクロのTシャツにもなったし、ハローキティと組んだ製品も出ている。
冒頭で触れたジミー チュウのコレクションは2月に発売された。目玉はピンクのラインストーンがちりばめられた受注生産のブーツで、一足約190万円だ。
20周年の時には、ランジェリーショップのピーチ・ジョンとのコラボで、セーラー服風のブラジャーと、それに合わせたショーツのセットが発売されて物議を醸した。20歳(当時の日本の成人年齢)ともなればもう大人、ということだったのかもしれないが。
考えてみればジミー チュウがセーラームーン30周年に合わせてコラボしているというのも面白い。キャラクターたちもファンたちも、ブランド靴をありがたがる年齢になっているはず、ということだ。
でも多くの人にとって最も驚きだったのは、日本の厚生労働省による梅毒をはじめとする性感染症(STI)予防の啓発活動と、その一環として配られたコンドームとの2016年のコラボだろう。この手の啓発用キャラクターにセーラームーンがふさわしいのかと疑問視する声も上がったが、STIが打倒すべき現代のモンスターであることに間違いはない。
最新作の映画は前編・後編に分かれていて、現在は後編の公開中だ。内容的には90年代のアニメシリーズ最終シーズン『美少女戦士セーラームーン セーラースターズ』と重なっている。
そこで語られるのは、全シリーズ中でもとりわけ不思議なストーリーだ。3人組の「セーラースターライツ」は男性アイドルとして活躍しているが、女性のセーラー戦士に変身するのだ。
日本でもアメリカでもオーストラリアでも、性的少数者に平等な権利を与えることに対する抵抗は今も根強い。そんな社会背景の中で、本作がどのように受け入れられるか興味深い。
セーラームーンは90年代のガールパワー、つまり若い女性の自立を守る存在であり続けるのだろうか。それとも真実と正義を守る戦士として、月に代わってお仕置きをし、性的少数者の権利も守る存在へと進化するのだろうか。
Emerald L King, Lecturer in Humanities, University of Tasmania
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