「バレエ男子」をありのままに受容する、日本に世界は学ぶべき
Boys Dance Too and Are Celebrated in Japan
ニューヨークではスペンサーの発言に抗議する集会が THE NEW YORK TIMESーREDUX/AFLO
<日本のメディアは、男性バレエダンサーを1つの手本として位置付け、ダンスをする少年を応援する風潮が根付いている>
男の子がバレエ好きなんておかしい――8月下旬、米ABCの情報番組『グッドモーニング・アメリカ』司会者ララ・スペンサーが、バレエのレッスンを受けるイギリスのジョージ王子を嘲るような発言をした。
欧米のダンス界はすぐに一致団結して立ち上がった。#boysdancetoo(男の子だって踊る)というハッシュタグが生まれ、ミュージカル映画のスターだった故ジーン・ケリーの妻パトリシア・ウォード、ダンサーで振付師のトラビス・ウォールら著名人をはじめ、世界各地でダンスを学ぶ若者やその親が抗議の声を上げたのだ。
彼らは、自分が受けたいじめや困難の中でも情熱を貫いた体験を語った。批判を受けて、スペンサーは番組で謝罪。番組放送中、ニューヨークのタイムズスクエアのスタジオの外の路上では約300人が参加するバレエレッスンが開催された。
「バレエ男子」への先入観や偏見は今に始まったものではない。オーストラリア人作家クレメンタイン・フォードは昨年、友人の息子がバレエの発表会でチュチュを着たがったのに許されなかったと地元紙に書いた。
議論に再び火が付いた今、目を向けるべきは日本かもしれない。この国では、男性バレエダンサーがその美しさや鍛錬によって広く称賛されている。
筆者が住むオーストラリアでは、バレエなどを踊る少年や男性は、ダンスも「マッチョ」になり得るという理由で正当化されることが多い。スポーツと同じで力強さを表現できる、と。
昨年、オーストラリア・バレエ団が上演した『スパルタクス』はまさにこの路線だった。うたい文句は「トウシューズとチュチュだけがバレエ? 考え直せ」。男性層を取り込むには、アクションのすごさを強調するしかないと言わんばかりだ。
バレエ男子を増やそうという意図は立派でも、これではマッチョなイメージに共感できない多くの若者が結果的に排除される。固定観念的な「男らしさ」を強調するせいで、男女を問わずバレエに憧れる理由となるコスチュームや舞台装置、美しさ、芸術性などの要素が脇に追いやられることにもなる。
「男性的なもの」でなく
こうした姿勢はスペンサーの嘲笑的な発言の裏返しにすぎないだろう。固定観念を強化すれば、ダンサーを目指す少年たちの選択肢を狭めることになる。
そこで参考になるのが、日本文化における男性バレエダンサーの受容の在り方だ。それは、男らしさという狭い見方に基づくものではない。日本のメディアは男性バレエダンサー(と、その「親戚」であるフィギュアスケート男子選手)を1つの手本として位置付ける。テレビや数々のコンクール、専門誌のおかげで、ダンスをする少年を応援する風潮が根付いている。
英ロイヤル・バレエ団の元プリンシパル、熊川哲也は「日本で最も偉大なバレエダンサー」であるだけでなく、「世界史上最高のダンサーの1人」とされる。ロイヤル・バレエが2013年に来日公演を行った際には、プリンシパルのスティーブン・マクレイが監修するマンガがバレエ男子向け雑誌に掲載された。
国際舞台で活躍する日本人ダンサーは性別を問わず称賛される。14年に当時17歳の二山治雄がローザンヌ国際バレエコンクールで1位になった際には日本国内で大きく報じられた。
もちろん日本でも、バレエなど女の子のものとされてきた活動をする男の子への偏見はある。だが現在この国の主流メディアは、そうした男子をポジティブに見せようとし、それに成功している。
バレエを男性的なものとして提示すれば、男子人口を増やす上では効果的だ。だがバレエが体現する美の概念や手本としての役割や、ダンス好きの男の子が仲間を見いだす場を持つことの重要性も無視してはならない。
日本で男性ダンサーへの注目が高まったのは、国際的名声を得る若者が続々登場したこともあるだろう。おかげで、より幅広い層の男性の間でバレエの認知度や影響力が高まっている。
#boysdancetooの動きは、単にバレエ男子のスポーツ的でマッチョな側面に注目するのではなく、彼らをより豊かな意味合いで肯定的に捉える日本的アプローチを反映している。主流メディアがこうした取り上げ方をすれば、今も少数派として孤立するバレエ男子は帰属感や支え合いの精神を手にできる。仲間とつながり合い、関心や夢やバレエへの愛を共有できるようになるはずだ。
Masafumi Monden, Lecturer in Japanese Studies, University of Western Australia
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.