肉と麹を合わせる──日本の「こうじ」に世界のシェフが夢中
The New Kale?
西洋料理のシェフたちは食材としてまた料理の「道具」として、麹のさまざまな活用法を研究中 JONAS KING
<コペンハーゲンの「ノーマ」など世界の有名レストランで、日本の食材「麹」の味と働きが斬新な形で活用され始めた>
ノーマといえば、料理の独創性で世界に知られた超有名レストラン。デンマークの首都コペンハーゲンにある店には発酵の研究部門があり、その責任者ダビド・ジルベールは2、3日おきに研究室に入り、蒸した大麦を発酵させているトレイを点検する。
けば立ったその表面は、冷蔵庫の奥に眠る食品に生えるカビによく似ている。でもジルベールは満足そう。「これが麹(こうじ)、すべてを変えるマジックだ」
日本や東アジアで何千年も前から食品類の発酵に使われてきた麹菌はカビの一種。正式にはアスペルギルス・オリゼーと言い、通常は穀類で培養される。
日本酒の醸造に使われるだけでなく、今や世界語となったウマミ(旨味)を生み出す源が麹。気が付けば西洋料理の世界にも進出していた。
「ノーマでは、麹を味付けに使う」とジルベールは言う。「でも麹がすごいのは、材料であると同時に『道具』でもあることだ。麹が出す酵素はタンパク質を分解するから、自然と肉を軟らかくしてくれる」
ジルベールだけではない。クリエーティブなシェフたちは麹を、日本の料理人が考えもしなかった環境で育てている。
「1300年の間、仏教の影響で日本では動物の肉を食べない習慣があった。だから大豆や小麦などを麹菌で発酵させ、肉代わりのタンパク質として用いてきた」と言うのは、東京・西麻布の名店レフェルヴェソンスの生江史伸。「ノーマが肉と麹を合わせていると聞いて、つくづく感心した」
麹に挑戦しているのはノーマだけではない。米サウスカロライナ州チャールストンのマックレディズでは、味噌ペーストに使う麹を乾燥インゲンで育てている。テキサス州オースティンにあるエマー&ライのケビン・フィンクは、チーズケーキのトッピングに麹のクッキーを砕いて、まぶしている。
スペイン北部のサン・セバスチャンにあるレストラン、ムガリッツのアンドニ・アドゥリスの自慢料理は、麹で作ったライスケーキ(餅)だ。「うちの店は食感にこだわるんだ」とアドゥリスは言う。その濃厚だが軟らかい「麹からできた餅」は、まさしく「フレンチトーストのよう」だとか。
西洋料理の世界では、麹はまだ導入が始まったばかりの素材だ。しかし意欲的なシェフたちは、見つけたばかりの麹の可能性を豊かに開拓していくに違いない。ジルベールは言う。「発酵の世界は奥が深い。油で炒めるよりも(麹を加えるほうが)はるかに可能性がある」
[2017年2月21日号掲載]
※当記事は2017年2月22日にアップした記事の再掲載です。