最新記事
シリーズ日本再発見

ハーバードが絶賛する「日本」のポテンシャルと課題

2018年03月22日(木)20時01分
印南敦史(作家、書評家)

終章においてもそのことにページが割かれている。ただし、そこには「ハーバードの教授陣も手放しで日本を絶賛しているわけではない」という記述もある。「課題」として提示されているものは次の3つ。「①グローバル化」「②イノベーションの創出」「③若者と女性の活用」だ。

グローバル化が遅れている理由として挙げられているのは、「変化への極度の抵抗」、そして「ローカル志向」の人の多さだ。グローバル派が増えないのは、それが日本では「出る杭」として認識されているからだそうだ。また、イノベーションの創出が昔ほど進んでいないのは、「快適な国」であることが一因であるともいう。アメリカは問題だらけの国だから、それらを解決するためにイノベーションが生まれる。しかし、日本にはそれがないということだ。このことに関する唯一のチャンスが、高齢化にあるという指摘も興味深い。


いまの日本はイノベーションを起こすチャンスだ、と前向きな意見を述べるのが、ロザベス・モス・カンター教授だ。
「日本は高齢化社会ですね。高齢化社会であることはイノベーションを生み出しやすいという利点があります。高齢者が多ければ『若い労働者が不足しているから、道路も鉄道も思うように建設できない。それならどうしようか』と考えますね。それを解決するにはイノベーションを起こすしかありません」(238ページより)

その点も含め、若者と女性の活用が実現すれば、そこが突破口になるかもしれないという考え方だ。

先にも触れたとおり、ハーバードから、あるいは全世界からこれだけ注目されているにもかかわらず、そうした情報は私たちのもとにはほとんど入ってこない。だからこそ、その重要な部分を開示した本書には大きな価値があるといえる。

ただし、そのうえで求められるべきは、我々の意識の持ち方なのではないだろうか? たしかに、現在の日本の閉塞感には無視できないものがある。しかし、だからといって「もうダメだ」「先がない」と囁きあっていても、そこからはなにも生まれない。それよりも、(ダメかもしれないけれど)「これだけの可能性もある」ということを意識していくべきだということ。そうやって前向きに信じ、そこから「どうすればいいか」を考える。そんな姿勢こそが、なによりも大切なのではないかと思えるのである。


『ハーバードでいちばん人気の国・日本』
 佐藤智恵 著
 PHP新書

※当記事は2016年5月25日にアップした記事の再掲載です。

[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に、「ライフハッカー[日本版]」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダヴィンチ」「THE 21」などにも寄稿。新刊『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)をはじめ、『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)など著作多数。

japan_banner500-season2.jpg

【お知らせ】
ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮情勢から英国ロイヤルファミリーの話題まで
世界の動きをウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、二国間貿易推進へ米国と対話する用意ある=商務

ビジネス

ノルウェー・エクイノール、再生エネ部門で20%人員

ワールド

ロシア・イラク首脳が電話会談 OPECプラスの協調

ワールド

トランプ次期米大統領、ウォーシュ氏の財務長官起用を
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中