最新記事
シリーズ日本再発見

ハーバードが絶賛する「日本」のポテンシャルと課題

2018年03月22日(木)20時01分
印南敦史(作家、書評家)

まったく同じ話を、実際に掃除をしたおばちゃんから聞いたことがあるので、このエピソードが決して大げさなものではないことが私にはわかる。そんなことがありうるのかとにわかには信じ難く、何度も聞き返したのだが、彼女は戸惑うかのように「だって、みんな困っていたワケですからね......」と、こちらの目を見ながら答えたのだ。そのとき私が感じたのは、おそらく本書を通じて著者が伝えたかったことと同じなのではないかと思う。


日本の社会は、世界でも類をみないほど平和で安定している。金融史を教えるデビッド・モス教授(David A. Moss)はいう。
「日本はとてつもない力を秘めた国です。政治システムも安定しています。経済状態が悪くなっても、暴力的な事件や、暴動が起きるわけでもありません。日本がいかに平和で安定しているかというのは、経済問題を抱える他国と比較してみればよくわかります。日本は『平和で安定した国家をつくる』という偉業に成功した国なのです」
 偉業に成功した国から、明日何が起こるかわからない時代を生き抜く指針を見出そうとしているのである。(37ページより)

新幹線の清掃以外にも、トヨタの圧倒的な強さの秘密からアベノミクスまで、日本のさまざまな功績が紹介されていく(もっとも、後者がハーバードで取り上げられる理由に関しては個人的に理解し難く、また本書での考察も浅いように感じたが)。また、「戦略・マーケティング」「リーダーシップ」についてもそれぞれ章が立てられている。なかでも「福島第二原発を救った『チーム増田』」には、強力なリーダーシップ論として読み継がれていくべき価値があるといえる。ひとつ間違えばメルトダウンを起こすかもしれなかった福島第二原発のリスクが、リーダーであった増田尚宏所長の立ち回りによってすんでのところで食い止められたという話だ。


「増田さんは、作業員でごった返す緊急時対応センターで、ホワイトボードにひたすら数字と図を書いていったのです。(中略)つまり『私にも何が起こっているかわからないが、少なくともいま私が知っていることはこれだ』と作業員と情報を共有したのです。これを社会心理学では、『センスメーキング』(sense making)といいます。危機の真っただ中にいて、センスメーキングをできるリーダーはなかなかいません」(206~207ページより)

センスメーキングがあったからこそ作業員がパニックに陥らなかったというわけで、ここにはさまざまなリーダーが応用できるヒントが隠されているといえるのではないか?

さて、本書を読み進めていくと、実感せざるを得ないことがひとつある。「いわれてみれば、たしかにすごいかもしれない」日本人の持つ力を、我々日本人がいちばんわかっていないのではないだろうかということだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ショルツ独首相、2期目出馬へ ピストリウス国防相が

ワールド

米共和強硬派ゲーツ氏、司法長官の指名辞退 買春疑惑

ビジネス

車載電池のスウェーデン・ノースボルト、米で破産申請

ビジネス

自動車大手、トランプ氏にEV税控除維持と自動運転促
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中