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ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
日本の言論統制は中国なみ?
先日、日本の「言論NPO」と英字紙チャイナデイリー紙を発行する中国日報社が実施している日中共同世論調査の今年の調査結果が発表になった。「中国人の対日感情は改善している」という調査結果は日本の主要メディアの既報通りだが、資料を見ていて奇妙なデータが目に留まった。
双方のメディア報道に関する意識調査で、「相手国に報道・言論の自由はあるか」という質問に対して「実質的に規制されている、あるいは自由がない」と答えた回答した中国人が63・1%もいたのだ。しかも数字は昨年より増えている(09年は53・5%)。自国メディアが客観報道をしていると信じている中国人も61・8%に上った(こちらは前年の72・5%より減った)。
日本には報道の自由がない? 中国メディアが客観報道をしている? まるで日本人の「常識」と正反対だが、哀れな中国人が勘違いしている、と結論付けるのは少し待ったほうがいい。
まず日本の報道が「実質的に規制されている、あるいは自由がない」というのは、あながち間違いではない。国家権力による検閲こそ憲法によって禁止されているが、例えば検察を報道する司法記者がいつでも自由に検察批判できるか、といわれれば答えはノー。天皇制や部落差別、ヤクザに関わる自主規制もマスメディアにはいまだに存在している。
「中国メディアが客観報道している」というのはどうひいき目に見ても厳しいが、それでもネットの普及に伴うメディアの多様化によって、中国共産党指導部という「最後のタブー」を除いてかなりの部分が客観報道に近づいている。61・8%という数字は、それこそ「文化大革命のころに比べて」というエクスキューズが回答した中国人の頭の中で無意識に働いた結果なのかもしれない。
アンケートに答えた中国人すべてが日本語を理解してインターネットで日本メディアの報道ぶりをチェックしているはずはないから、回答はあくまでイメージを反映したものに過ぎない。それは必ずしも中国メディアがつくりあげた「虚像」ではないだろう。むしろ「いかなる国のマスメディアもしょせん権力やタブーによる規制を逃れられない」という中国人の「達観」であるように思える。
ちなみに中国人の「自国メディアが客観報道しているとは思わない」との回答は29・3%で、前年の17・6%から大幅に増えた。国際的に見てもまともな市民感覚が中国国民の間で確実に育ち始めている。このデータはその証拠といっていい(日本人の同じ質問に対する同じ回答は28%だった)。
――編集部・長岡義博
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