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ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
グラウンド・ゼロはNYだけなのか
9・11テロが起きたとき、ワシントンDCに住んでいた。朝テレビをつけると、ニューヨークの世界貿易センタービルから煙が立ち上っていた。すぐに2機目が突入した。朝から授業があったので、とりあえず大学に行ったが、「ペンタゴン(国防総省)もやられた」と連絡が入り、家に帰された。
それからのアメリカは恐怖と疑心暗鬼と復讐に包まれた。私自身、地下鉄でターバンを巻いた中東系の人を見かけたとき、少しも恐怖心を抱かなかったと言えば嘘になる。そういった感情を憎しみにまでエスカレートさせてしまったアメリカ人は、ヘイトクライム(憎悪犯罪)に走った。
全米各地でイスラム教徒やモスクが襲撃された。通っていた大学では、中東からの留学生に自宅待機が命じられた。学校に来ると危ない目に遭うかもしれないから。車にわざわざ星条旗のステッカーを貼って走る中東系移民。彼らの痛ましい叫びが聞こえてきそうだった。アメリカに忠誠を誓います。私たちはあなた方の敵ではありません、と。
あれから9年。「グラウンド・ゼロ」近くのモスク建設計画をめぐる対立を契機に、ヘイトクライムが再燃の兆しをみせている。ニューヨークでは先週月曜、イスラム教徒のタクシードライバーが刺され、水曜には酔った男がクイーンズのモスクに入り、お祈り用のマットに小便をかけて逮捕された。カリフォルニアでも、イスラム教徒をテロリスト呼ばわりする看板がモスクに置かれていたという。
9・11テロの遺族の気持ちを思えば、このモスク建設にいい気分がしないのも分からなくはない。でもやはり絶対に間違ってならないのは、「ムスリム=テロリスト」ではないということ。あらためて強調するのも馬鹿らしいが、あの日、ツインタワーに突っ込んだのは、一部の過激な思想を持ったグループ。イスラム教徒みんながみんな日夜テロを企てているわけではない。
どうすればモスク建設反対派の心は静まるのか──。
「イスラム教」という抽象的な概念や「モスク」という建造物とか、体温が感じられないもので考えるからいけないのではないか。モスクに通う「人」を思ってほしい。共通点はイスラム教徒であることかもしれないが、そこにはいろんな人が通うはずだ。職業も年齢もさまざま、もちろん性格だって人それぞれ違う。なかには、もし一緒の学校や職場だったり、ご近所さんだったら気の合う仲間になるような人もいるはずだ。人を知ろうとするとき、誰かと関係を築くとき、宗教や国籍や肌の色よりも、その人の人となりのほうが大事なはずだ。
何をどうこうしても、憎しみが収まらない人たちは知っているだろうか。あなたたちがムスリムとテロリストを区別できないのと同じように、イラクやアフガニスタンの人たちはアメリカが言うところの「正しい戦争」に理解など示していない。米軍が言うところの「コラテラル・ダメージ」(やむを得ない民間人の犠牲)なんか納得しちゃいない。大切な人は、米軍、米政府、アメリカに殺されたのだ。
イラクやアフガニスタンには国中に「グラウンド・ゼロ」がある。
──編集部・中村美鈴
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