東南アジアの紛争地帯に林立する「ネット詐欺工場」──10万人以上を搾取する中国人マフィア
無法地帯に生まれた工業団地
なぜこうしたネット詐欺「工場」が東南アジア、とりわけタイとの国境に近いミャンマーのシャン州やカイン州などに集中してあるのか。
一言でいえば、ミャンマーのこの一帯が無法地帯になっているからだ。
もともとシャン州などではミャンマーの現体制に抵抗する少数民族の武装活動があったが、これに拍車をかけたのが2021年2月のクーデタだ。これをきっかけに反政府勢力の武装活動がそれまで以上に活発化し、内乱は全土に広がった。
戦闘の激化により、ネット詐欺や人身取引の大がかりな拠点があっても、ミャンマーの治安機関が踏み込むことは難しい(戦闘の激しい土地が組織犯罪の温床になるのはウクライナやイエメンでも同じ)。
ネット詐欺工場に捕らえられた被害者は、ありもしない高級の仕事に釣られてタイの首都バンコクに呼び出され、そこから車に閉じ込められて密林地帯の国境を超えてミャンマー領内にまで移動することが多いとみられている。
暗躍する中国人マフィア
ところで、紛争地帯を舞台にしたネット詐欺工場には中国人マフィアの関与が指摘されている。
昨年11月に英ロイター通信は、全世界でネット詐欺の被害者が騙し取られた資金のうち、9,000万ドルがタイを拠点にする中国人実業家Wang Yi Cheng氏の口座に振り込まれていたと報じた。
そのなかには、先述のKKパークからのものが多く含まれていた。
Wang氏はバンコクにある商社「タイ・アジア経済交流協会」の副社長で、タイの政財界にも幅広い人脈をもち、タイ警察のサイバー犯罪対策室立ち上げにもかかわった。
こうした報道に関して、ミャンマーやタイの当局、そして米FBI(被害者には多くのアメリカ人も含まれる)などは、今のところ公式に反応していない。
巨大ネットワークの影
ただし、Wang氏は大きなネットワークの一部にすぎない公算が高い。
Wang氏が副社長だったタイ・アジア経済交流協会は、昨年までバンコクにあるオフィスビルを「海外鴻門文化交流センター」と共用していた。
その実質的な所有者は、中国最大の組織犯罪の首魁としてアメリカ政府から制裁の対象になっているWan Kuok Koiである。そのため海外鴻門文化交流センターは昨年2月、タイ当局に摘発を受け、その後解体された。
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