コラム

ケニアとEUの経済連携協定締結は「アフリカ争奪戦」の趨勢を変える?

2023年07月07日(金)21時00分

中ロ支持というより先進国への警戒

さらに、ヨーロッパを含む欧米はこれまでも貿易に関してしばしばアフリカに圧力を加えてきた歴史も無視できない。

近年では、アメリカのトランプ前大統領によるものがあげられる。アフリカ各国は自国の繊維産業育成のために古着輸入に関税をかけているが、トランプ政権はこれを「不公正」と批判し、援助削減を示唆しながらその撤廃を求めたため、ルワンダを除くほとんどの国はこれに渋々応じた。

しかも、仕方ないことかも知れないが、ほとんどの先進国はこの状況を黙殺した。

この構図こそ、アフリカのほとんどの国が中ロとの友好関係を維持する根本的な背景といえる。つまり、アフリカには中ロ支持というより先進国への警戒と不信が目立つのだ。

だとすれば、巻き返しを意識するのであれば、ただ中ロを批判するよりむしろ先進国とのつき合いを深めることの恩恵を丁寧に説明し、アフリカの警戒と不信を和らげるしかないだろう。

古い格言に「敵を知り、己を知れば、百戦危からず」という。先進国はこれまで中ロを知ることに努めてきたが、先進国自身を知らなければならない時に来ているといえるだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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