コラム

日中の「援助競争」はアフリカの自助努力を損ないかねない

2022年09月02日(金)17時10分

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日本政府は「2019年のTICAD7で約束した200億ドルの民間投資という約束はほぼ達成した」と強調するが、この3年間でアフリカにおける日本の対外直接投資残高はほとんど変化していない。つまり、200億ドルの新規投資があったとしても、それと同じくらい流出したということだ。

感染症やテロなどのリスク、さらに経済停滞に直面して不採算部門を削減するなかで、企業がアフリカ向け投資を引きあげることはやむを得ないだろう。

しかし、成果に関する検討も不足しがちなままで日本政府がアクセルを踏み続けることは、むしろ中国と張り合うこと自体を目的化することにもなりかねない。それは日本の持続性という観点だけでなく、アフリカの自助努力を損ないかねないという意味でも疑問が多い。

その意味で、日本がアフリカと向き合ううえでは、これまでの成果と内容を再検討することから再スタートする必要があるだろう。中国とのレースに心を奪われて、ただ金額を競っていては、むしろアフリカの心をつかむことも難しいのだから。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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