30万人を戦場に送り出せる「部分的動員」──プーチンを決断させた3つの理由
当初100万人近い兵員を国境に配備し、短期間でウクライナ全土を制圧しようとしたロシア軍だが、ウクライナ側の抵抗により、戦闘は長期化している。
とりわけロシアにとって重要度の高いウクライナ東部(後述)で、ウクライナ側が巻き返しを進めていることにより、ロシア軍は国境警備に当たっていた兵力を追加で侵攻させる必要に迫られている。それによって空白となる国境警備に当てるため、部分的動員によって予備役を招集したとみられる。
部分的動員の背景 ②「ウクライナ東部で譲歩しない」のメッセージ
第二に、「本気度」を海外にアピールすることだ。たとえ批判されても部分的動員を発令したとなると、それだけプーチンは本気だというメッセージを内外に発信することになる。
その焦点になるのが、ウクライナ東部のドンバス地方だ。
①にも関連するが、3月に首都キーウの攻略に失敗して以来、ロシアが「勝利」を叫ぶうえで最低限のラインは、この地域の確保になっている。この地にはもともとロシア系人が多く、2014年以降はウクライナからの分離独立を要求するロシア民族主義勢力によって実効支配され、これをプーチン政権が支援してきたからだ。
今年2月にウクライナ侵攻を開始する直前の3月21日、ロシア政府はこの地域で「独立」を宣言していたドネツク人民共和国とルハンスク人民共和国を国家として承認していた。これは「ドネツクやルハンスクはウクライナの一部ではない」と認めたことになる。
そのウクライナ東部では9月23日から、ドネツクやルハンスクだけでなく、ヘルソン、サポリージャの4か所で、ロシアへの編入への賛否を問う住民投票が行われている。これらの地域はウクライナ全土の約15%を占める。
こうした住民投票は2014年のクリミア危機の際にも行われ、その結果をもってロシアはクリミアを事実上併合した。
これと同じことが繰り返されようとしているわけだが、その直前に部分的動員が発令されたことは、住民投票を批判するウクライナ政府や欧米に対して、あくまでこの地域を確保しようとする姿勢を打ち出すものといえる。
21日にテレビ演説で部分的動員を発表した際、プーチンは「欧米がロシアに対して'核の脅し' を仕掛けている」と述べ、「欧米に負けない強いリーダー」を改めて演出した。
部分的動員は欧米の圧力があってもあくまで東部を譲らないというメッセージを発する効果もあったといえる。
部分的動員の背景 ③強硬派からの突き上げ
そして第三に、国内の強硬派にも「ウクライナ侵攻で妥協しない」というメッセージを発することだ。
職業軍人以外を戦闘任務につかせる動員は内外の反発を招きやすく、先述のように、実際にウクライナ侵攻が始まって以来、若者を中心に国外脱出を目指す動きも加速していた。だからこそ、プーチン政権は動員令を否定し続けてきたといえる。
「核兵器を使えばガザ戦争はすぐ終わる」は正しいか? 大戦末期の日本とガザが違う4つの理由 2024.08.15
パリ五輪と米大統領選の影で「ウ中接近」が進む理由 2024.07.30
フランス発ユーロ危機はあるか──右翼と左翼の間で沈没する「エリート大統領」マクロン 2024.07.10