コラム

極右政権になったらどうなる? 知っておきたいフランス大統領選の基礎知識5選

2022年04月22日(金)17時05分

当初、中道派と目されていたマクロンは大統領に就任以来、ムスリムの取り締まりを強化するなど、国民連合とあまり違わない対応を見せてきたが、これは有力ライバルの支持基盤を切り崩すための手段ともみられている。

大統領選挙の争点は何か

今回のフランス大統領選挙は、ウクライナ侵攻という外交問題とともに、エネルギー価格の高騰など国民生活が大きな争点となっている。

このうち、ロシアへの対応を念頭に、ヨーロッパの結束を重視する現職マクロンは「この選挙はヨーロッパにとっての国民投票だ」と述べるなど、外交を重視した選挙キャンペーンを展開している。

これに対して、4月20日のTV討論でルペンは「国内のフランス人が第一だ」とマクロンを批判し、物価上昇やコロナ対策を優先させるべきという姿勢を打ち出した。

こうした議論は、実は両者とも自分に都合の悪い部分を棚上げにしようとした結果ともいえる。

マクロン政権は規制緩和による経済活性化を目指したが、おりからのコロナ禍もあり、国民生活は悪化する一方だ。それに対する不満は、しばしば大規模な抗議活動が発生してきた。

マクロンが大統領に就任した翌2018年には、燃料税の引き上げをきっかけに右派と左派の両方が参加する数万人の抗議デモ「イエロー・ベスト」がパリを覆った。

今年2月にも、コロナ対策が厳しすぎると不満を募らせるデモ隊が、無数の自動車やトラックでパリ中心部を占拠した。これはカナダの「フリーダム・コンボイ」の影響を受けたものだ。こうしたなかでマクロンが外交を強調することは不思議でない。

その一方で、ルペンが「フランス第一」を強調するのは、イデオロギーだけが理由ではなく、過去のプーチンとの関係への批判をかわすためでもある。ルペンは白人至上主義的な主張や反グローバリズムで共通するプーチンと近く、過去には選挙資金を借りていたことも発覚している。

ウクライナ侵攻後、こうした関係が批判されることも増えるなか、ルペンはこれまで以上に「国民生活を優先するべき」と主張するようになっているのである。

ドイツ公共放送DWの調査によると、フランスの有権者の約80%は「どの政党も信頼できない」と答えているが、大統領選挙の有力候補がどちらも自分の暗部を覆い隠すような対応に終始していることは、有権者の政治不信の一因といえる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

バンクーバーで祭りの群衆に車突っ込む、複数の死傷者

ワールド

イラン、米国との核協議継続へ 外相「極めて慎重」

ワールド

プーチン氏、ウクライナと前提条件なしで交渉の用意 

ワールド

ロシア、クルスク州の完全奪回表明 ウクライナは否定
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドローン攻撃」、逃げ惑う従業員たち...映像公開
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 6
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 7
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 10
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story