コラム

スポーツ界に迫るタリバンの影──アフガン女子アスリートの相次ぐ国外退避

2021年10月18日(月)16時15分

しかし、それは競技に打ち込む女性・少女の意志や希望を無視するものだ。少なくとも、こうしたタリバンの姿勢が、多くの女子アスリートに国外退避を決断させたことは間違いない。

サッカー以外でも相次ぐ退避

サウジアラビアなど多くのイスラム諸国でも、基本的に女子アスリートの活動は制限されやすいが、アフガンほど強い抵抗が生まれることは珍しい。

アフガンでは20年前の米軍による攻撃でタリバン政権が一度は崩壊し、その後はアメリカの肝いりで女性の社会参加が促されてきた。つまり、規制がいったん大幅に緩められ、それが再び180度転換したことが、規制が続いた場合より、拒絶反応を強くしたといえる。

その結果、アフガン国外に退避したのはサッカー女子のユース強化指定選手だけではない。例えば、サッカー女子代表チームはオーストラリアに受け入れられている。

その他、バレーボール、自転車、テコンドーなどの競技でも、女子アスリートが集団で各国に庇護されている。

ただし、運よく海外に逃れられた女子アスリートばかりではない。例えば、クリケット女子代表チームは国際大会にも参加できないまま、今もアフガンから離れられないでいる。

白黒つけられない女子スポーツ

とはいえ、アフガンにとどまらざるを得ない女子アスリートも、競技への道が完全に遮断されているわけではない。

アフガン・クリケット協会のアジズラ・ファズリ議長は10月13日付けのアル・ジャズィーラで、「我々の宗教と文化を頭に入れなければならない。例えばサッカーのような競技をする場合、我が国では女性が他の国と同じように短パンを着用することはできない」と留保する一方、「タリバンは公式には女子スポーツを禁じていないし、女性がスポーツをすることを問題にしていない」とも述べている。

ファズリ議長はタリバン復権の前からクリケット協会の議長を務めていて、イスラム過激派とは無縁の立場だが、クリケットをはじめ女子スポーツの存続をタリバンに働きかけてきた。

その立場から言葉を慎重に選ばざるを得ないことがうかがえるが、少なくともファズリ議長が指摘するように、これまでのところ「女子スポーツ禁止」はタリバン高官の発言にとどまり、公式に決定されたものではない(高官の発言が政府の公式方針と食い違うことがあるのは日本でも珍しくない)。

そこには、海外からの反応とコアな支持者の間で揺れ動くタリバンの姿を見出せる。

タリバン内部には海外との関係構築を優先させようとする派閥と、イスラムの価値観に忠実であろうとする派閥がある。どちらに大きく転んでも、タリバンそのものが内部分裂しかねない。だからこそ、「女子スポーツ禁止」を強調する高官がいても、公式には何も禁じられていないとみてよい。

だとしても、それは女子アスリートにとって安心材料とはいえない。白黒が明白につかない間、女子アスリートの立場は宙ぶらりんであり続けるからだ。その間も、'非公式の'脅迫は彼女たちを悩ませ続けるだろう。

政治に翻弄されるアフガンの女子アスリートの苦難は、始まったばかりなのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日本の働き掛け奏功せず、米が相互関税24% 安倍元

ワールド

ロシアが企業ビル爆撃、4人死亡 ゼレンスキー氏出身

ビジネス

米関税24%の衝撃、日本株一時1600円超安 市場

ワールド

米連邦地裁、収賄疑惑のNY市長の起訴棄却 政権の「
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のため…
  • 10
    トランプ政権でついに「内ゲバ」が始まる...シグナル…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story