コラム

バイデンは「親中」ではないが「親日」でもない──日本が覚悟するべきこと

2020年11月16日(月)19時05分

その一方で、バイデンはトランプ政権のもとでギクシャクした同盟国との関係改善にも意欲をみせているが、これは中国包囲網の形成を念頭に置いたものとみてよい。

ところが、香港などに関する中国包囲網への参加を求められることは、日本にとって居心地が良くないだろう。日本政府は中国に限らず、海外の人権問題にほぼ全く触れてこなかったからだ。

日本政府は伝統的に内政不干渉を重視してきた。言い換えると、日本政府は基本的に人権より国家の主権を尊重する。だからこそ、日本政府は香港問題とも距離を置き、中国政府に「懸念」を伝えるにとどまってきた。

だとすると、バイデンが香港問題を糸口に中国包囲網を強め、同盟国に協力を求めてくることは、日本政府にとって歓迎できない話だ。しかし、そこで日本政府の立場を忖度してくれるほど、バイデンが「親日」的とも思えない。

香港問題での際立った静けさ

もっとも、これまで香港問題に及び腰だったのは日本だけではない。

トランプ大統領は香港当局や中国政府を批判し、「香港人権・民主主義法」に基づく制裁を導入してきた。そこには、中国本土とは異なる香港の貿易に関する優遇措置の停止、輸出規制、香港政府要人の入国禁止などが含まれる。

しかし、トランプがこうした制裁に突っ込んだのに対して、多くの同盟国はやはり中国を批判したものの、制裁は限定的だった。

EUは7月、アメリカと歩調を合わせて輸出規制を導入し、香港への優遇措置を停止した他、香港からの亡命を受け入れるためビザ発給の緩和も検討されている。ただし、アメリカと異なり要人往来の禁止などには踏み切っていない。そのため、中国政府系英字メディア、グローバル・タイムズは「EUの制裁はフリだけ」と論評している。

オーストラリアやカナダも、香港当局や中国政府を批判するメッセージを発しても、実効的な制裁には踏み切っていない。

とはいえ、これらと比べても日本政府の静けさは際立っており、制裁はもちろん批判さえも控えてきた(この点では韓国も同じ)。もちろん、欧米と日本では地理的、歴史的に中国との関わりが違うが、それでもアメリカからの要求がとりわけ強くなっても不思議ではない。

日本はアメを期待しにくい

制裁に及び腰の同盟国を巻き込んで中国包囲網を形成しようとするなら、制裁にともなう損失への同盟国の不安を、バイデンは払拭しなければならない。そのため、アメリカとの貿易交渉などでそれなりに同盟国に気をつかう可能性はある。

つまり、「アメ」だ。トランプ政権のもとで関係が悪化した同盟国には、なおさらバイデンはアメを惜しまないとみられる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ポーランド、米と約20億ドル相当の防空協定を締結へ

ワールド

トランプ・メディア、「NYSEテキサス」上場を計画

ビジネス

独CPI、3月速報は+2.3% 伸び鈍化で追加利下

ワールド

ロシア、米との協力継続 週内の首脳電話会談の予定な
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    「関税ショック」で米経済にスタグフレーションの兆…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story