コラム

バイデンは「親中」ではないが「親日」でもない──日本が覚悟するべきこと

2020年11月16日(月)19時05分

地元ウィルミントンの集会に出席したバイデン次期大統領(2020年11月10日) JONATHAN ERNST-REUTERS


・バイデンはこれまで中国要人と広く交流してきたが、「親中」とみなされることは今のアメリカではリスクが高い

・それもあって、バイデンはトランプ政権のもとでギクシャクした同盟国との関係改善を進め、中国包囲網の形成を目指すとみられる

・しかし、とりわけ香港問題でバイデンが中国への圧力を強めるほど、日本政府は居心地の悪さを感じることになる

バイデンの大統領就任で、日本政府はトランプ時代ほど振り回されなくなるだろうが、これまでとは違った形で選択を迫られることも増えるだろう。

「反中タカ派」のイメージチェンジ

菅首相は12日、アメリカ次期大統領に決まったバイデン氏と電話会談し、尖閣諸島が日米安保条約の適用範囲という合意を得た。バイデンが中国に対してソフトすぎるのではという懸念を抱いていた外交関係者は安堵の息を漏らしたといわれる。

大統領としてのバイデンは決して「親中」にならないだろう。そうみられること自体、今のアメリカでは政治的リスクになるからだ。

香港デモやコロナ禍をきっかけに、アメリカでは党派を超え、これまで以上に反中感情が高まっている。

ところが、1979年にアメリカ議会が中国に初めて議員団を派遣した時、若手上院議員としてこれに参加して以来、バイデンは中国政府と密接な関係をもってきた。そのため、トランプ大統領は選挙戦のなかで「バイデンが当選すればアメリカ人が中国語を学ばなければならなくなる」と主張するなど、「親中」のラベルを貼るのに躍起になった経緯がある。

これを受けてバイデンは軌道修正し、香港問題に関して習近平を「悪党」と呼び、中国への厳しい措置を大統領選挙の公約に掲げた。

バイデンが「親中」とみなされることを避けなければならないのは、ちょうど「ロシア寄り」とみなされるのを避けるため、ことさらロシアに対決姿勢を強めたトランプ大統領と同じといえる。

日本政府の居心地悪さとは

ただし、バイデンの「反中」が日本政府にとって都合がいいとは限らない。とりわけ、日本政府が難しい判断を迫られるのは、香港や新疆ウイグル自治区での人権問題だ。

例えば、香港に関してバイデンは、トランプの対応を不十分と批判してきた。人権問題に伝統的に熱心な民主党の大統領として、バイデンは渡航禁止の対象となる香港政府要人を増やすなど、これまで以上に中国への圧力を強めるとみられる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story