米中貿易戦争が示すアメリカの黄昏
トランプ大統領の一理
トランプ氏は大統領選挙中から「アメリカが不公正な競争を強いられてきた」と強調してきた。この被害者意識が、中国との貿易戦争の勃発を正当化している。
トランプ大統領の主張は、全く事実無根とはいえない。
アメリカは自由貿易体制を維持するためのコストをどの国より負担してきた。
特に、アメリカほど外国企業に市場を開放してきた国は少ない。相手国の市場開放が進んでいなくても、アメリカが市場を率先して開放したことは、世界全体の貿易を活性化させ、他国が対米輸出を通じて経済成長できる土台となった。それは結果的に、日本やヨーロッパ諸国の戦後復興や新興国の成長を可能にした一方、アメリカ企業の輸出競争力を低下させることにもなった。
つまり、これまでアメリカは「互恵」をあえて強調しないことで、世界全体の貿易を活発化させてきたといえる。「相手が不公正なことをしているのだからそれを返す」というトランプ氏の言い分は、その限りにおいて不当でない。
超大国・アメリカの黄昏
ただし、注意すべきは、自由貿易体制からアメリカが小さくない利益をあげてきたことだ。
例えば、1940年代後半から日本や西ヨーロッパ諸国に市場を開放することで、アメリカはこれら各国を、東西冷戦の構造のなかで自陣営に引き込むことに成功した。そのうえ、これら各国との貿易が活発化したことで、競争力の高い農業やサービス業の分野で、アメリカ企業は大きな市場を手に入れた。
つまり、世界全体の利益を生み出すなかで、アメリカは自国が最も利益をあげられる状況を作り出したといえる。「全体の利益すなわち自国の利益」という秩序を形作れたのは、アメリカが超大国と呼ばれるにふさわしい意志と力を備えていたことの表れだった。
これと対照的に、トランプ政権は「米国の利益」を強調することで、世界全体の利益に背を向ける傾向が強い。これは、超大国としての役割の放棄を宣言するに等しい。
この論調の大きな背景には、自由貿易体制によってアメリカ自身の首が締まってきたことがある。グローバル化によって企業の流出によって中間層が失われたことや、中国に代表される反米勢力の台頭までも促されたことは、その典型だ。
とはいえ、中国を狙い撃ちして一方的に関税を引き上げることは、アメリカが生んだ自由貿易体制を自ら侵食するものでもある。アメリカは現在でも世界最大の大国だが、世界全体の秩序を作り出す超大国としては長い黄昏の時期にあることを、米中貿易戦争は示している。
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