中国「ガリウムとゲルマニウム」輸出規制の影響は?
こうして中国の輸出規制は腰砕けになったうえに、日本やEUには中国のレアアースの輸出規制がGATT違反だとしてWTOに提訴されてしまった。中国は、レアアースのとめどない輸出によって国内の資源が枯渇し、環境破壊がもたらされたから輸出を規制するのだと主張した。しかし、それならば国内の採掘を制限するのが先決であり、国内での生産を制限せずに輸出だけ絞ろうとするのは、真の狙いがレアアースの囲い込みであるからだと反論された。結局、2014年にWTOのパネルで中国のレアアース輸出規制は不当であり、撤回すべきだと勧告された。
中国がレアアースの輸出規制を試みている間に、それまで休止していた他の国でのレアアース生産が再開され、2010年には世界のレアアース生産の97%を占めていた中国のシェアは7割程度に下がった。もはや中国にはレアアース輸出を「武器化」できるような独占力はなくなった。
数量規制ではなく用途規制
一方、中国がこのたび輸出規制を強めることに決めたガリウムの場合、2022年に世界で550トン生産されたうちの540トン(98%)を中国が占めていた(U.S. Geological Survey, 2023)。今回の輸出規制について報じた中国『環球時報』の記事(7月3日付)のなかで、中国現代国際関係研究院の研究者は「重要な鉱産資源は戦略的新興産業の喉元にあたるので、複雑な地政学的環境のもとで大国間の新たな駆け引きの場となっている」とコメントしている。要するに、中国はガリウムというチョークポイントを締め上げることによって外国(特にアメリカ)の関連産業を窒息させることができると示唆しているようだ。
しかし、実際にそのようなことが起きる可能性は低いと私は思う。まず、今回の輸出規制は2011年頃のレアアースに対する輸出制限とは違って輸出の数量を削減することを目的とするものではない。輸出業者が、ガリウムやゲルマニウムの最終的なユーザーと用途を示し、それが軍事用途でないと証明できれば輸出が許可されることになっている。理論的には中国の当局がすべての輸出申請を許可して従来通りの輸出が続く可能性もあるし、一切許可しない可能性もあるし、部分的に許可する可能性もある。どの程度まで規制するかは中国の当局の匙加減次第となるが、後で論じるように、一切許可しなくなるということにはならないだろう。
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