インド太平洋経済枠組み(IPEF)は国際法違反にならないのだろうか?
バイデン政権になってからもアメリカはTPPに復帰するつもりはなく、IPEFでも関税引き下げは話し合わないのだという。となると、IPEFではただ中国との貿易制限を取り決めるだけということになるのだろうか。ただ、それではGATT違反になるし、IPEFに加入する国には他の加入国との貿易拡大という果実が得られないばかりか、中国との貿易の縮小を強いられるばかりで、得になることは何もないだろう。
各国はアメリカの顔を立ててIPEFへの参加を表明したものの、結局何のメリットもないので、IPEFは船出したもののどこにも到着せずにインド洋か太平洋の藻屑と消える、という展開も考えられる。
一方で、IPEFはWTOではカバーされていないデータの国際流通の自由化を進めるという話もある(日本経済新聞、5月19日)。国によっては、企業がデータセンターを自国内に置くよう求める「データ・ローカライゼーション」を行っている国もあるが、アメリカはIPEFを通じてそうした規制を撤廃し、IPEFの加盟国の間でデータが自由に行き来するようにしたいのだという。
中国はむしろデータ・ローカライゼーションを義務付ける法律を作ったぐらいであるから、IPEFのデータ自由流通の枠組に入れてくれと言ってくる可能性は低い。データの自由流通の世界から排除されたとしても、それで「差別された」と騒ぎ出すことはないだろう。また、WTOでもデータの国際流通について明確なルールが定まっているわけではないので、IPEFの域内でのみデータが自由に流通する仕組を作ったとしても、無差別の原則に反すると指弾される可能性は低いだろう。そう考えるとIPEFがデータの国際流通を切り口としてその存在意義を発揮するという展開はありうる。
LINEのサーバーが域内のどこでも可になる
ただ、日本では2021年にLINEの個人データが韓国のサーバーで保存されていることが騒ぎになって、LINEが日本国内にデータを移すという事件があったばかりである。IPEFでデータ・ローカライゼーション規制の撤廃が決まれば、むしろ日本の個人データを韓国で保存するようなことが当たり前に行われ、それをやめさせようと規制することの方がご法度だということになる。
IPEFに対するもう一つの疑問、それはそもそもこれは国際条約なのかという点である。バイデン大統領は5月23日に発足を宣言し、日本もそのメンバーになったのだが、IPEFの話が最初に出たのは昨年秋であり、いかにも唐突である。TPPやRCEPは国際条約なので、加盟国間の交渉が妥結したら、各国の国会での承認の手続きを経ることで初めて発足する。ところが、IPEFは「通常の多国間協定とは違い、議会の承認は得ず、緩やかな連携を目指す」(NHK、5月18日)ということなので、議会の承認は求めないらしい。
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