恒大集団の危機は中国バブル崩壊の引き金になるか
これには、投資信託を買わされた元従業員や出入りの業者が怒り、9月12日には、各地で恒大集団の支社の幹部たちが抗議する人々に取り囲まれる事件が起きた。そこで恒大集団が翌13日に発表した新たな返済案では、3か月おきに元利の10%ずつを償還するか、または恒大集団が作った団地のマンションや駐車スペースなどの現物で返すという。その際にはマンションの値段を48~72%も割り引く。
実質的には売れないマンションの叩き売りといってよいが、多くの債権者は納得せず、現物での償還を拒否しているという。
このように、恒大集団の不動産事業がもはやにっちもさっちもいかない状況になっていることは明らかである。こうなったうえは資金力と販売力のある他の不動産会社に、建設中の住宅団地を債権も債務もまるごと引き取ってもらう以外にない。実際、恒大集団は万科、中国海外発展など他の大手不動産業者や、広東省と深圳市の国有資産監督管理委員会などに接触し、所有する不動産を売却する交渉を進めてきた。
しかし、不動産には銀行や建設業者への債務だけでなく、投資信託で集めた金などが複雑に絡んでいるため、売却交渉はうまくいっていない。恒大集団は深圳市の旧市街の改造プロジェクトという優良資産を持っているが、これに対しては、許家印総裁が「他社に足元を見られて安く売るようなことはするな」と厳命しているため、やはり売却交渉は進んでいない。
恒大集団はすでに自力で経営を立て直すことが難しい状況にあるとみられる。近い将来に社債のデフォルトと破産という道をたどる可能性が高い。
多角化失敗の経営責任
恒大集団の問題を報じたNHKのニュースに登場した専門家は、恒大集団は「Too big to fail(大きすぎてつぶせない)」企業なので国有化されるだろう、との見方を示していたが、そうした寛大な措置が採られる可能性は低いと筆者は考える。
恒大集団の経営状況がここまで悪化した原因は、借金や社債や投資信託といった外部資金に過度に依存して不動産業の急激に拡大したこと、そしてその儲けを電気自動車やサッカーチームや住宅・自動車の販売網といった収益性の低い多角化事業に投入した無謀さに求められる。つまり、経営悪化の原因は、何らかの外部要因、あるいは一時的要因に基づくものではなく、恒大集団の経営自体にある。
とするならば、同社の経営陣には責任を取って退陣してもらうしかない。そしてすでに負債が資産を上回る状況にあるとすれば、会社を破産させたうえで、債務を整理する必要がある。無謀な事業に資金を貸し込んだ銀行や、高利の投資信託に投資した人々にはある程度の損失を飲んでもらう一方で、マンションの代金を前払いした人々には着実にマンションを手にできるようにし、工事代金をもらっていない建設業者や、資材代金を受け取っていない材料メーカーには代金を支払う必要がある。
EVと太陽電池に「過剰生産能力」はあるのか? 2024.05.29
情報機関が異例の口出し、閉塞感つのる中国経済 2024.02.13
スタバを迎え撃つ中華系カフェチェーンの挑戦 2024.01.30
出稼ぎ労働者に寄り添う深圳と重慶、冷酷な北京 2023.12.07
新参の都市住民が暮らす中国「城中村」というスラム 2023.11.06
不動産バブル崩壊で中国経済は「日本化」するか 2023.10.26
「レアメタル」は希少という誤解 2023.07.25