コラム

恒大集団の危機は中国バブル崩壊の引き金になるか

2021年09月28日(火)20時03分

これには、投資信託を買わされた元従業員や出入りの業者が怒り、9月12日には、各地で恒大集団の支社の幹部たちが抗議する人々に取り囲まれる事件が起きた。そこで恒大集団が翌13日に発表した新たな返済案では、3か月おきに元利の10%ずつを償還するか、または恒大集団が作った団地のマンションや駐車スペースなどの現物で返すという。その際にはマンションの値段を48~72%も割り引く。

実質的には売れないマンションの叩き売りといってよいが、多くの債権者は納得せず、現物での償還を拒否しているという。

このように、恒大集団の不動産事業がもはやにっちもさっちもいかない状況になっていることは明らかである。こうなったうえは資金力と販売力のある他の不動産会社に、建設中の住宅団地を債権も債務もまるごと引き取ってもらう以外にない。実際、恒大集団は万科、中国海外発展など他の大手不動産業者や、広東省と深圳市の国有資産監督管理委員会などに接触し、所有する不動産を売却する交渉を進めてきた。

しかし、不動産には銀行や建設業者への債務だけでなく、投資信託で集めた金などが複雑に絡んでいるため、売却交渉はうまくいっていない。恒大集団は深圳市の旧市街の改造プロジェクトという優良資産を持っているが、これに対しては、許家印総裁が「他社に足元を見られて安く売るようなことはするな」と厳命しているため、やはり売却交渉は進んでいない。

恒大集団はすでに自力で経営を立て直すことが難しい状況にあるとみられる。近い将来に社債のデフォルトと破産という道をたどる可能性が高い。

多角化失敗の経営責任

恒大集団の問題を報じたNHKのニュースに登場した専門家は、恒大集団は「Too big to fail(大きすぎてつぶせない)」企業なので国有化されるだろう、との見方を示していたが、そうした寛大な措置が採られる可能性は低いと筆者は考える。

恒大集団の経営状況がここまで悪化した原因は、借金や社債や投資信託といった外部資金に過度に依存して不動産業の急激に拡大したこと、そしてその儲けを電気自動車やサッカーチームや住宅・自動車の販売網といった収益性の低い多角化事業に投入した無謀さに求められる。つまり、経営悪化の原因は、何らかの外部要因、あるいは一時的要因に基づくものではなく、恒大集団の経営自体にある。

とするならば、同社の経営陣には責任を取って退陣してもらうしかない。そしてすでに負債が資産を上回る状況にあるとすれば、会社を破産させたうえで、債務を整理する必要がある。無謀な事業に資金を貸し込んだ銀行や、高利の投資信託に投資した人々にはある程度の損失を飲んでもらう一方で、マンションの代金を前払いした人々には着実にマンションを手にできるようにし、工事代金をもらっていない建設業者や、資材代金を受け取っていない材料メーカーには代金を支払う必要がある。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story