コラム

恒大集団の危機は中国バブル崩壊の引き金になるか

2021年09月28日(火)20時03分

恒大集団が2017年に中信銀行深圳支店から借金した時、中信銀行は恒大集団の幹部たちも自ら住宅開発プロジェクトに出資して、そのプロジェクトに賭ける姿勢を見せてほしいと要求した。そこで、恒大集団は子会社の恒大財富を通じて社員向けの投資信託を発行した。これは年利率25%で、2年で元本も利子も償還される、というとんでもない好条件の投資信託であったが、最低購入単位が300万元(約5200万円)だったので、従業員でグループを組んで購入した。

この投資信託を買うことが恒大集団の社員にノルマとして課せられ、ノルマが達成できない社員はボーナスを差し引かれた。恒大集団は、住宅団地の工事を請け負う業者に対しても、工事代金の1割程度は恒大財富の投資信託を買うように求めた。

こうして投資信託を売って得た資金は、恒大集団に材料などを供給するメーカーに融資するという触れ込みだったが、実際には、恒大集団の住宅団地の建設に使われているといわれる。恒大集団は2016年に瀋陽の盛京銀行の筆頭株主となったが、その目的も盛京銀行から住宅建設の資金を引き出すことだったとされる。

自力再建は不可能か

以上のように、恒大集団は、同社の会計帳簿に記載されている銀行からの借金、発行した社債、建設業者や資材サプライヤーに対する未払金、そして住宅の買い手から預かった前受け金といった負債以外に、従業員や関係者に対して子会社を通じて発行した投資信託、盛京銀行から引き出した資金、さらに関連会社が銀行から借りた資金などの隠れた負債がある。その合計額は、恒大集団の帳簿上の純資産(4110億元)を超えている可能性がある。もしそうであれば恒大集団の経営はすでに自力では再建できない。いったん破産して、債務の一部を免除してもらう必要がある。

恒大集団は投資信託を売ったり、盛京銀行を取り込むなど、住宅建設の資金をさまざまな手段でかき集めてきたが、今年6月頃から急に行き詰まり始めた。まず、住宅の売り上げが6月から月を追って激減し、8月には6月の半分ほどにまで落ち込んだ。

売上金が入ってこないので、住宅開発の資金がショートして建設が中断してしまう。9月初旬の時点で、全国で800のプロジェクトが進行中だったが、うち500が資金不足のために中断していた。

また、年利率25%をうたって従業員や出入りの業者に買わせた投資信託も、実際には年4〜5%の配当しか出せなかった。しかも、投資信託を売った時には恒大財富は2年で償還するといっていたのに、実際には10万元以上投資した人には5年に分けて償還すると9月9日に発表した。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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