コラム

繰り返される日本の失敗パターン

2020年05月02日(土)17時15分

安倍首相の肝いりで全国5000万世帯に一家に2枚ずつ配布が始まった通称「アベノマスク」も役に立たないという点では風船爆弾とどっこいどっこいのようである。

先に配布された妊婦用の布マスクの場合、5月1日までに4万6934枚に黄ばみやカビの疑いなどの不良が見つかり、すでに発送した47万枚を国に返送させて検品しなおすという(『朝日新聞』2020年5月1日)。全戸配布される「アベノマスク」についても不良品が続出したため、未配布分を業者が回収して検品しなおすという。

不良率が1割というのは、これまで中国から研修で来日する企業家たちに「日本企業はPPM(百万分の1)のオーダーで不良率の低減を目指しています」と説明し続けてきた私にとっては、まったく目を覆いたくなるほどの惨状である。加えて、致命的と思われるのは、アベノマスクを使って粒子がどれだけ漏れるかを検証してみたら漏れ率が100%だったという事実である(『AERAdot』2020年4月28日)。アベノマスクは国民を安心させるために配るのだと首相の側近たちは言っているらしいが、決して安心してはいけない代物なのである。

アベノマスクに大量の不良品が混じっているうえ、そもそも感染予防には役に立たないことが明らかになった以上、回収して検品しなおして再配布するなどという無駄なことは直ちにやめ、未配布分は廃棄すべきである。すでに配布してしまった分については「ウイルス遮断の効果はありませんが、咳エチケットとして着用する場合には煮沸消毒したうえでお使いください」と政府から市民に伝えるべきだ。そうしないとアベノマスクが健康被害を引き起こしかねない。そしてこの無益な物に膨大な国費を費やしたことに対して、責任者に応分の処分を下すべきである。

3.科学よりも情緒に引きずられた入国拒否

新型コロナウイルスの特徴は、感染者が無症状のまま他人に感染させてしまうことである。そこで、感染している蓋然性の高い人たちの動きを制限することで感染拡大を防止する措置がとられてきた。すなわち、中国の武漢で感染爆発が起きたときには武漢が封鎖され、その後も感染爆発が起きている国からの入国を制限することが世界中の国によって行われている。WHOは当初国境を遮断する措置に反対したが、結果的には出入国の制限はかなり効果的だったと思われる。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story