コラム

マスク不足はなぜ起き、どうやって解消すべきなのか

2020年04月13日(月)17時20分

新型コロナウイルスについての記者会見の後、マスクを着け直す安倍晋三首相(4月7日、首相官邸) Tomohiro Ohsumi/REUTERS

<日本の全世帯にマスクを配るより、その費用をマスクの増産に回せば、不足が解消できてなおお釣りがくる>

日本での新型コロナウイルスへの感染確認数はクルーズ船を除いて4月12日20時現在7370人となっている。3月29日以降、日本では1日12%ずつ感染確認数が増えており、今週中(4月18日まで)に1万人を超えるのはほぼ確実である。4月7日に日本政府は「緊急事態宣言」を出したが、武漢やニューヨークの例から見て、強力な外出制限をかけてもその効果が現れてくるまで2週間ぐらいかかる。このまま感染爆発が4月下旬まで続き、感染者数が2万人に達する恐れさえある。

感染の懸念が高まるなか、東京では2月初旬からドラッグストアでマスクが入手しにくくなった。小売店では購入量に制限を設けているが、それでも毎朝開店前に長い行列ができている。

安倍首相は、3月5日に月6億枚以上の供給を確保していると言明したが、それから1カ月以上経ってもマスクの入手困難は解消しない。我が家でも1月以降一度もマスクを買っておらず、インフルエンザ流行に備えて買っておいた使い捨てマスクを消毒して繰り返し使うことでなんとか間に合わせている。いったい、このマスク不足はいつになったら解消するのだろうか。

marukawa200413_1.png

そもそも、マスク不足はなぜ起きたのか。

まず、日本でどれぐらいのマスクが供給されているのかを図1で確認しておこう。2018年度の場合、1年間に55億枚のマスクが供給され、うち国内生産が2割、輸入が8割であった。輸入の86%は中国からである。

中国の感染拡大で品薄に

つまり、2018年には月平均で4億6150万枚のマスクが供給されていたことになるので、安倍首相がいうように月6億枚の供給があればふだんなら十分だった。しかし、2020年2月以降のマスク需要は少なくとも例年の2倍の月9億枚ぐらいにはなっていると考えられる。つまり、月6億枚では足りないのだ。

日本でマスク不足が始まったのは2月初旬であるが、その時点での新型コロナウイルスへの感染者数はまだ30人以下だった。人々がマスクを買い求めたのは感染を恐れたというより、「中国で感染拡大によってマスク需要が高まるため、日本への輸出が減るのではないか。だとしたら、買えるうちに買っておこう」という心理が働いたようである。マスク不足と同時にトイレットペーパーの不足が起きたのはもっぱらそうした心理によるものであった。ただし、トイレットペーパーについていえば、もともと国内生産で需要の97%が賄われているので、人々の心配は誤解に発していたのだが。

それに対して、不織布マスク(ドラッグストアで売られている使い捨てのマスク)の場合、供給の8割を輸入に頼っており、しかもその9割近くが中国からの輸入なので、中国でマスク需要が高まれば日本への輸出が減ってマスクが入手しにくくなる、というのはありそうなことである。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、イタリア大使呼び抗議 クルスク州報道巡り「

ワールド

アングル:中国ヒット映画が描くギグワーカーの厳しい

ワールド

アングル:ガザに酷暑、避難民の苦境深まる 支援活動

ワールド

原油先物約2%下落、中国需要増への期待薄らぐ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界に挑戦する日本エンタメ2024
特集:世界に挑戦する日本エンタメ2024
2024年8月13日/2024年8月20日号(8/ 6発売)

新しい扉を自分たちで開ける日本人アーティストたち

※今号には表紙が異なり、インタビュー英訳が掲載される特別編集版もあります。紙版:定価570円(本体518円)デジタル版:価格420円(本体381円)

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア戦車を爆破する瞬間「開いたハッチは最高のプレゼント」
  • 3
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は猛反発 そのデザインとは?
  • 4
    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…
  • 5
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新…
  • 6
    メーガン妃とヘンリー王子の「愚痴」が止まらない
  • 7
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 8
    新発見の白亜紀ワニ、化石が解き明かす古代の海洋生態
  • 9
    シングルマザー世帯にとって夏休みは過酷な期間
  • 10
    1本の毛が手掛かり 絶滅ジャワトラを追え
  • 1
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新研究】
  • 2
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 3
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア戦車を爆破する瞬間「開いたハッチは最高のプレゼント」
  • 4
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 5
    ウクライナに国境を侵されたロシア、「とてつもなく…
  • 6
    古代ギリシャ神話の「半人半獣」が水道工事中に発見…
  • 7
    日本人が知らない「現実」...インバウンド客「二重価…
  • 8
    シングルマザー世帯にとって夏休みは過酷な期間
  • 9
    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…
  • 10
    シャーロット王女が放つ「ただならぬオーラ」にルイ…
  • 1
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新研究】
  • 2
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 3
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 4
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 5
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 6
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 9
    バフェットは暴落前に大量の株を売り、市場を恐怖に…
  • 10
    古代ギリシャ神話の「半人半獣」が水道工事中に発見…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story