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アングル:ガザに酷暑、避難民の苦境深まる 支援活動に支障も

2024年08月17日(土)08時22分

 イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続くパレスチナ自治区ガザ。廃墟で生き残ろうとする人々にとって恐ろしいのは学校や避難所に降り注ぐミサイルばかりではない。写真はエジプトのアルアリシュで、ガザに物資を運ぶために待機するトラックドライバーたち。7月4日撮影(2024年 ロイター/Amr Alfiky)

Nazih Osseiran Menna Farouk

[ベイルート 13日 トムソン・ロイター財団] - イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続くパレスチナ自治区ガザ。廃墟で生き残ろうとする人々にとって恐ろしいのは学校や避難所に降り注ぐミサイルばかりではない。容赦なく照り付ける太陽で気温が上昇し、人々の健康状態は一段と悪化しており、支援活動にも支障が出ている。

サマヘル・アルダウルさん(42)は戦争が始まったころに殺されていた方が良かったと思うことがある。今、空爆で片脚を失った息子のハイサムさん(20)が耐えがたい暑さに苦しむのを目の当たりするのは辛すぎる。電話インタビューで「とてもひどい状況だ。昼間はテントの中も外も、ものすごく暑い。海に行くこともあるが、それでもとても厳しい」と話した。

ハイサムさんは2月に中部マガジ難民キャンプにある、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)が運営する学校が空爆を受けた際に片脚を失った。蒸し暑さのために安静にできず、体力が回復しない。常に汗をかき、脚が腫れてしまう。「暑さのせいで苦しんでいる」という。

戦闘開始から10カ月のガザでは、230万人の住民のほとんどが避難生活を送っている。テントや過密な避難所で生活し、電気や飲み水はほぼ手に入らない。避難民は飢えと体力の低下に苦しみ、シャワーを浴びることはできず、酷暑のため寝ることすら難しい。暑さのせいで食べ物は腐り、すし詰め状態のキャンプにはハエなどの虫が大量に発生。何度も避難を余儀なくされた人々は今、熱中症など気温上昇に関連する疾病の危険にさらされている。

ガザは4月以降、気温が40度に達する極端な暑さに見舞われ、米民間気象予報会社によると、8月の平均気温は34度に達した。世界保健機関(WHO)は6月下旬、過酷な暑さによって数百万の避難民が健康を悪化させる可能性があると警告。清潔な水、食料、医療品の不足により公衆衛生の危機が迫っていると訴えた。

空爆や戦闘、インフラの破壊で作業が制約を受けている援助機関も、酷暑で活動がさらに難しくなっている。気候問題と人道支援に取り組むADAPTのポール・ノックス・クラーク氏は、支援団体は対処能力を超える「恐怖」にさらされるため、気候変動の影響への対応などの課題にまでは手が回らないことが多いと指摘。気候問題への対応は「前例が皆無ではないが、通常の手法には含まれていない」と述べた。

支援団体の医療担当者によると、冷却が必要な薬品の輸送が特に困難を極めている。イスラエルがガザへの物資輸送を制限しているため、援助物資を積んだトラックは許可を得るために日光の下で数時間も待たされることが珍しくないという。

<酷暑対応を優先>

長引く戦闘で既に多数が死傷し、重要インフラが破壊され、飢餓の危険も指摘されるガザは今、夏の極端な暑さによって一段と苦しい状況に置かれている。近年、地中海地域は命が危険なほどの熱波が頻発し、科学者は気候変動が原因だと指摘している。

子どもを支援するセーブ・ザ・チルドレンのファディ・ドウェイク氏によると、同団体は酷暑に対応するため既にガザでの活動で優先順位を変更した。通常はまず精神的医療サービスや教育支援の提供に焦点を当てるが、今は水や衛生サービス、栄養や健康支援の提供を優先している。

ドウェイク氏は「今回の紛争をきっかけに、これまで考えなかった細かいことに目を向け、代替案の適用を考えるようになった。戦争と破壊が今も進んでいるが、それにもかかわらず環境要因を優先しており、これは初めてのことだ」と語った。

サバ・ハメスさん(62)にとっても暑さはやり過ごすことのできない問題だ。5月にエジプト国境近くのラファから避難し、今は親戚18人と一緒にテントで暮らす。電話インタビューで「テントは金属製の薄い板で作られた狭い簡易的な建物で、中はサウナのようだ。ほとんど息ができないこともある」と窮状を訴えた。

ロイター
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