コラム

マスク不足はなぜ起き、どうやって解消すべきなのか

2020年04月13日(月)17時20分

2月下旬に感染爆発に見舞われた韓国でもマスク需要が高まり、韓国政府は国内でのマスクの増産を推進する政策をとった。ところが、同じころ中国でもマスク需要が高まっていたため、せっかく増産したマスクの9割が公式・非公式のルートを通じて中国に流出してしまい、国内でのマスク不足が解消しなかった。そこで、韓国政府は3月6日にマスクの輸出を原則的に禁止する措置をとるとともに、住民登録番号を利用して国民1人が毎週購入できるマスクを2枚までと限定することによって、国民にマスクがいきわたるようにした(金、2020)。

中国でのマスク需要の急増が日本のマスク不足をもたらしたのかどうかを輸入データで検証しよう。図2は2020年1、2月の日本の不織布マスクの輸入量を2019年の1、2月と比べたものである。1月は中国からの輸入が2019年1月より18%増えているが、2月は中国からの輸入が前年の半分に減り、輸入全体も44%減っている。2月には日本でのマスク需要が高まったのに、中国からの輸入が大幅に減少したことがマスク不足をもたらしたと結論できる。

中国の感染終息で輸出が拡大する

中国では新型コロナウイルスへの感染爆発が1月下旬に起きたが、運悪く旧正月の休暇と重なってしまった。マスク工場も休暇に入っており、1月末の時点でもなおマスク工場の6割が休業していた。そこで中国政府はマスク工場だけでなく、自動車メーカーなどにも働きかけてマスクの増産を図り、2月末には一日1億1000万枚(月産33億枚)まで生産が拡大した。

不織布マスクのなかで重要な部分はチリやウイルスを濾過するフィルターで、ポリプロピレンを溶かして糸状に噴き出すメルトブロー法という製法によって作られる不織布によってできている。フィルター生産は装置産業であるためそう簡単に増産できないので、2月にはフィルター不足が起きて価格が高騰した。だが、3月に入って石化メーカーの燕山石化で10本の不織布生産ラインが稼働しはじめたことで、供給不足も緩和された。

こうして中国の不織布マスク生産能力は1月から3月の間に5倍以上に拡大したが、中国での新型コロナウイルスの流行は3月中旬にはほぼ終息したため、それまでは国内消費に向かっていた中国製のマスクが今後は海外へ大量に輸出されることになるだろう(Bown, 2020)。

marukawa200413_2.png

なお、海外のメディアでは中国政府がマスクの輸出を禁じたために海外でマスク不足が生じたという報道があったが、中国政府はそのような措置はとってないと否定した(Wang, 2020)。図2からも、中国でのマスク需要が最も高まった2月にも中国から日本へのマスク輸出が止まっていないことがわかるので、中国政府がマスク輸出を禁止したというのは濡れぎぬであった可能性が高い。

また、中国で感染が拡大していた2月には、日本に住む中国人が中国の親戚や友人などにマスクを送る動きがあった。しかし、財務省の貿易統計を見るかぎり、日本のマスク輸出は2020年1月、2月ともにゼロである。つまり、日本から中国へのマスクの流出が起きていたとしても、中国からの輸入量に比べればはるかに少なかったであろう。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ドバイ空港付近の無人機攻撃の火災鎮火、運航は徐々に

ワールド

ドバイ空港付近の無人機攻撃の火災鎮火、運航は徐々に

ビジネス

台湾・鴻海、第4四半期は2%減益 AI需要好調も市

ワールド

日経平均は小幅続落、原油高基調を嫌気 海外株高は支
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目のやり場に困る」衣装...「これはオシャレなの?」
  • 3
    「筋肉はモッツァレラと同じ」...なぜウォーミングアップは「2セット」でいいのか?
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    幼い子供たちの「おぞましい変化」を克明に記録...「…
  • 6
    機内で「人生最悪」の経験をした女性客...後ろの客の…
  • 7
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 8
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 9
    ぜんぜん身体を隠せてない! 米セレブ、「細いロープ…
  • 10
    50代から急増!? 「老け込む人」に共通する体の異変【…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 7
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 8
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 9
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story