お金になりそこねた日本の「電子マネー」
ところが2014年の旧正月に支付宝と微信支付が激しい顧客獲得競争を繰り広げたことをきっかけにスマホ・マネーの利用者が一気に増え、世の中が一変した。いまではコンビニ、レストラン、路上の屋台においてさえもスマホ・マネーで支払いを済ます人が多い。先週北京大学に行った時に入った構内のカフェでは現金を受け付けず、支付宝か微信支付でしか支払えなかった。これからそういう店がますます増えそうである。
一方、日本では現金流通残高/GDPの割合が世界一高いばかりでなく、ますます高まる傾向にある。これは流通している現金の多くが貯蔵需要(すなわちタンス預金)に向かっているからではないかと日本銀行は分析している(日本銀行「BIS 決済統計からみた日本のリテール・大口資金決済システムの特徴」2017年2月)。
どうせ銀行に預けておいても金利ゼロだし、お金を泥棒に盗られる心配もあまりないからとタンス預金する人が増えているようだ。高齢者がタンスに現金をしまい込んだまま亡くなり、遺族がそれに気づかぬまま遺品を処理するので、ごみ集積場で多額の現金が見つかることが増えているらしい(NHKクローズアップ現代+「現金が捨てられる!?」2018年1月16日放送)。
世界一よくできた自販機
日本では現金を使うのが便利だから現金志向が強いということも言えそうである。現金を扱う自動販売機の性能の良さにかけては日本は世界一ではないかと思う。私は2年ほど前にヨーロッパに4カ月ほど滞在したが、その間に、乗車券の自動販売機にコインを入れたら何も出てこないという経験を3回ぐらいした。中国の地下鉄の自動販売機はときどき紙幣を受け付けてくれないので、地下鉄に乗る時は1元のコインをたくさん用意していかないと切符を買いにくい。
そういう体験をして日本に戻ると、140円の切符を買うのに1万円を入れてもドカッと釣銭が出てくるとか、いっぺんにジャラジャラと硬貨を入れても正確に数えてくれるなど、日本の自動販売機の性能の良さを再認識する。
日本の現金志向が強いもう一つの理由、それは電子マネーが不便なことである。電子マネーが使える場所がまだまだ限られている。それは日本の電子マネーの多くが非接触ICカード「FeliCa」という技術を選択してしまったためでもある。
客からFeliCaでの支払いを受けられるようにするにはお店が読み取り機を用意しなければならないが、それが1台何万円もするため、読み取り機を配置しない商店が多く、電子マネーが使えるお店がなかなか増えない。
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