コラム

雄安新区の可能性を現地でみてきた

2017年08月29日(火)11時55分

雄安新区の一部に指定された河北省保定市容城県で、地上げを戒めた横断幕。「今日勝手に土地を買うやつは明日はすっからかんだ」とある Jason Lee-REUTERS

<中国政府が首都のサブセンターとして開発を発表した「雄安新区」。通うには遠いようだが、期待できるのか? ゴーストタウン化は避けられるのか? 早くも「雄安」の標語が林立する現場にも行ってみた>

2017年4月1日、中国政府は首都・北京の過密問題を解決するために、河北省保定市に属する雄県、容城県、安新県にまたがる地域に「雄安」という名の新しい都市を作り、そこに「首都のサブセンター」を作ることを発表した。これは深圳特区、上海浦東新区に並ぶ「千年の大計、国家の大事」だというのだから、すごく力が入っているのは間違いない。

ただ、ここのところ中国で新都市を作るというとすぐに「鬼城」(ゴーストタウン)になりはしないかとの心配が頭をもたげてくる。実際、内モンゴル・オルドス市のカンバシ区だとか、天津の「マンハッタン」と称する響螺湾ビジネス街など壮大な都市計画が失敗するケースが続いている。「雄安新区」もそうなってしまうのではないか、新しい入れ物を作るより、既存の入れ物を売り切ることを考えたほうがいいのではないかと思ってしまう。

雄安には北京の「非首都機能」を移すというのだが、そもそも「非首都機能」とは何を指すのかはっきりしない。日本では1980年代の竹下政権時代に「首都機能移転」が始まったが、首都機能といえば省庁やその関連機関、国会などを指すのは明らかであろう。では首都の「非首都機能」とは何だろうか。例えば、北京のベッドタウンを雄安に作るというのは、後で述べるように、距離が遠すぎてまったく現実的ではない。すると人口の多いところに付随する商業や文化施設なども移る可能性はない。企業の本社に移ってもらうというのもありうるが、政府が移転させることのできるのは国有企業だけであろう。北京にある工場を移すということも考えられるが、もともと北京の工場はすでに郊外や唐山市などへの移転を済ませており、移転することで北京の過密問題解消に寄与できるような工場はもう余り残っていない。

「非首都機能」とは何か

また、大学や研究機関の移転は、筑波学園都市の先例もあるからありうる話である。北京で、長年の友人に「非首都機能」とは何だと思うか聞いてみたら、政府関連機関、たとえば試験施設とかではないかという。ただ、それらを移転しただけではごく小さな都市にしなかならない。

しかし、これだけ鳴り物入りで始めたプロジェクトを失敗させるわけにもいかないだろう。ここにどんな都市ができる可能性があるのか、現地に行って考えてみた。

まず地理的な事実から確認しておく。雄安新区の中心部と目されている雄県のあたりは北京市の中心から直線距離で110キロ、天津市の中心から直線距離で100キロの位置にある。東京丸の内を起点に同じ大きさの三角形を書いてみると、東京―沼津―軽井沢がほぼ同じぐらいの大きさになる。雄安新区は、「北京―天津―河北の共同発展」という構想のなかから生まれてきたものだが、これを東京圏に引き付けて考えてみると、いささか拠点どうしの距離が離れすぎているように思う。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story