宝山鋼鉄-武漢鋼鉄の大型合併で中国鉄鋼業の過剰設備問題は解決へ向かうのか
今年9月下旬に宝山鋼鉄(宝鋼集団)と武漢鋼鉄(武鋼集団)との合併が発表されました。この2社は粗鋼生産量で世界5位と11位を占め(表1参照)、中央政府直属の大型国有鉄鋼企業の代表格です。両者の生産量を単純に足し合わせれば世界第2位の巨大鉄鋼メーカーが誕生することになり、中国は鉄鋼産業の集約化という目標に向かって大きな一歩を踏み出したといえます。
鉄鋼メーカーを巨大化した方がいいと考えられる要因としていくつか考えられます。もともと製鉄の高炉は大きいほど生産効率が高いという規模の経済性がありますし、世界の鉄鉱石の供給者が寡占化しているので、需要者である鉄鋼メーカーも大きい方が交渉上有利です。また、中国政府としては産業が少数の大企業によって支配されている方が、生産能力の調整などを行いやすいと考えていると思います。国外でも合併によってアルセロールミタル、新日鐵住金、JFEスチールなど巨大鉄鋼メーカーが形成されており、中国もそうした潮流に乗り遅れたくないという心理も働いていると思います。
中小のほうが効率的
しかしながら私は、大型国有企業の巨大化を促進し、中小鉄鋼メーカーを淘汰するという中国政府の産業集約化政策は根本的に誤っているのではないか、整理・淘汰されるべきは中小メーカーではなく、むしろ大型国有鉄鋼メーカーではないかと思っております。生産能力の過剰が前から問題になっていたにもかかわらずいっそうひどくなっているのもこの政策のせいではないかと思います。なぜ誤っているのかというと、大型企業のほうが経営効率が高いという政策の前提が中国の鉄鋼業では成り立っていないからです。
実際、鉄鋼メーカーへの産業集約化を目指して中国政府が旗を振り続けているにも関わらず、中国の現実はむしろそれとは逆の方向に進んでいます。表2に見るように中国の鉄鋼トップ10社が中国の粗鋼生産量に占める割合はここ5年で顕著に下がっているのです。
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