中国と東欧はどっちが先進国?
ウッジ大学(University of Lodz)の中国専門家も中国には中東欧の立場に対するもう少し細やかな配慮がほしいと言っていました。習近平国家主席は2015年11月26日に「16プラス1」協力会議に来た中東欧の首脳たちと会った際に、「16プラス1は南南協力の新たなプラットフォームだ」と発言しましたが、この中国専門家の見方では、これは中東欧の人々の感情を傷つける言葉でした。この場合、「南」とは「南北問題」という言葉における「南」、つまり発展途上国のことを意味しています。中東欧16カ国にはバルト3国やチェコ、スロバキア、スロベニア、ポーランドなど、世界銀行の基準ですでに高所得国に属する国も含まれており、まだ中所得国でしかない中国から途上国の仲間扱いされるのは心外だ。ウッジ大学の先生が言ったことをやや乱暴に翻訳すればそういうことです。
もっとも、習近平の肩を持つわけではありませんが、正確に言えば習近平は「南北協力の特徴を有する南南協力」と発言しております(『人民日報・海外版』2015年11月27日)。この前半の「南北協力の特徴を有する」というところで中東欧の高所得国への配慮を見せたのかも知れません。ところが、会議の場で中国は、金を出そう、企業を進出させたい、技術も出そう、と盛んに先進国的な役回りを演じました。「南北協力」といったときの「北」とはもしかしたら中国自身のことを指していたのでは、とも思ってしまいます。
貿易では圧倒的に中国
実際、中国とポーランドの経済関係をみると両者が微妙な位置関係にあることがわかります。1人当たりGDPを比較すると、2014年に中国が7590ドル、ポーランドが14,377ドルで中国の約2倍。両者の関係は「南北関係」、つまり中国が「南」、ポーランドが「北」です。ところが、貿易関係では両者の立場は逆転します。2015年には中国からポーランドへの輸出は224億ドル、ポーランドから中国への輸出が20億ドルで、圧倒的に中国の輸出超過でした(いずれもポーランド側の貿易統計で見ています)。しかも中国からポーランドへの輸出の内訳は電気機械が33%、一般機械が22%と、かなり先進国的な輸出内容になっているのに対して、ポーランドの対中輸出の34%は銅で占められており、モノカルチャー的です。ウッジ大学の先生は「肉ぐらいしか輸出できるものがない」と言っていましたが、それは誇張だとしても、ポーランドから中国へ輸出できるものがなかなか見つからないという様子が輸出額の少なさから見てとれます。
もっともポーランドに数日滞在して、やっぱりポーランドの方が中国よりずっと先進国だと思いました。中国との大きな差を感じるのが、皮肉にも中国が輸出を狙っている公共交通です。ウッジは人口72万人の都市ですが、市内には17路線の市電が縦横に走っていてとても便利です。中国のこの規模の都市では地下鉄も市電もありません。
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