中国・国家統計局長の解任と統計の改革
馬建堂局長は誰の目にも明らかなこうした矛盾をなくすために、省・市・自治区のGDPを各地方の統計局ではなく、国家統計局が計算して発表するという改革案を打ち出しました。馬氏は2014年に準備をして2015年から正式に実施するつもりだとも言いました(『21世紀経済報道』2014年1月9日)。
なかなか止まらない地方の成長率誇大報告
図にみるように2014年には、地方のGDPの合計と全国のGDPとの乖離(水分率)は前年の11%から8%に下がっています。これは改革の結果というよりも、2015年から改革を実施すると馬氏が発言したことのアナウンス効果の現れです。つまり、地方政府が2014年をあんまりかさ上げしすぎると、2015年に国家統計局が正確なGDPを発表した時にマイナス成長になってしまってみっともないことになる、と一部の地方が恐れて2014年の成長率を控え目に出したのです。
【参考記事】鉄鋼のたたき売りに見る中国の危ない改革先延ばし体質
ところが、2015年4月に馬建堂局長が国家行政学院副院長に転出し、後任の局長に王保安氏が就任するや、地方のGDP統計の改革がうやむやになってしまいました。2015年も相変わらず各地方がそれぞれのGDP成長率を発表しています。国全体の成長率(6.9%)を下回ったのは遼寧省(3.0%)、山西省(3.1%)、黒竜江省(5.7%)、吉林省(6.5%)の4省に限られ、他の地方の多くは相変わらずホラを吹き続けています。
馬局長が取り組んだもう一つの改革が失業統計の改革でした。中国の公式の失業率は「都市登録失業率」というものです。都市登録失業率は、都市戸籍を持ち、年齢は16歳以上、法定退職年齢(男性60歳、女性50歳)以下で、職がなく、職安に失業者として登録されている人たち、すなわち登録失業者が就業者と登録失業者の合計に対して何パーセントを占めるかを計算して求めます。
本当の失業率を求めて
その推移をみますと、2003年に4.3%だったのが、その後緩やかに低下して2007年には4.0%になり、2008-9年はリーマンショックの影響でいったん4.3%に上がりますが、翌年に4.1%に下がり、昨年末時点で4.05%、ときわめて狭い範囲で推移しています。この数字自体が捏造されている可能性は低いと私は見ていますが、問題は「登録失業者」が都市部に実際にいる失業者の一部しかカバーしていないことです。
例えば、1990年代後半には国有企業で大胆な雇用削減に踏み切り、4000万人以上の労働者が解雇されて、東北部などは文字通り失業者であふれたのですが、その時代に都市登録失業率はずっと3.1%で安定していました。国有企業から解雇された人たちには特別の待遇が与えられ、「登録失業者」にはならなかったからです。
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