コラム

中国・国家統計局長の解任と統計の改革

2016年02月08日(月)17時00分

 また今日中国の都市では総計1億7000万人近くの「農民工」(農業戸籍を持っていて工業やサービス業で働いている人)が働いていますが、彼らは失業しても都市戸籍を持たないため登録失業者になることができません。景気の変動の影響をもっとも敏感に受けるのは農民工ですから、失業率統計から農民工が除外されてしまうと、失業率は景気のバロメーターとしての機能を余り果たさなくなってしまいます。

 そこで国家統計局では1996年から「都市部登録失業率」に代わる「調査失業率」という統計を試験的に作り始めました(『21世紀経済報道』2015年7月6日)。これは都市部の家庭をサンプル調査して就業や失業の状況を調べて集計するもので、ILOが推奨する失業率の計算方法に沿ったものです。2005年から正式の調査を開始し、10年には調査対象を全国31都市に広げ、13年は65都市に、15年には全国に291あるすべての地区レベルの市(蘇州市、無錫市、桂林市・・・などです)に広げました。そのデータは馬建堂局長らが記者会見などで断片的に触れる以外にはまだ公表されていません。きわめてインパクトが大きい数字なので、準備に慎重を期しているのでしょう。

 「調査失業率」は毎月、都市ごとに作られますし、そこには農民工の失業者や国有企業からの失業者もカウントされますから、もし毎月、都市ごとに公表されるようになれば、例えば今年行われることになっているキョンシー企業退治(前回の本コラム参照)によって遼寧省や山西省で失業者が増える様子がきめ細かく観察できるようになるでしょう。

 国家統計局は今年から調査失業率を公式の失業率として公表し、政府はこれを政策目標の設定などでも活用するとしていました。ところが、昨年8月以降は12月末に全国の調査失業率が5.01%だったと発表されただけで、調査失業率に関して何の情報も公表されませんでした。

 やはり王保安氏は統計改革に対する熱意が低く、彼が局長だった10か月間、統計の改革が停滞したと言わざるをえません。新たに国家統計局長になる人には、ぜひ中国の統計の信頼性と客観性を高めるよう頑張っていただきたいものです。

この筆者の記事一覧はこちら

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏のバッド・バニー批判、中間選挙

ビジネス

独VW、28年末までにコスト20%削減を計画=独誌

ビジネス

高市首相と会談、植田日銀総裁「一般的な経済・金融情

ビジネス

地盤ネットHD、井村氏が代表の会社と投資機能活用な
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワートレーニング」が失速する理由
  • 2
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 3
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活動する動画に世界中のネット民から賞賛の声
  • 4
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 5
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 8
    それで街を歩いて大丈夫? 米モデル、「目のやり場に…
  • 9
    フロリダのディズニーを敬遠する動きが拡大、なぜ? …
  • 10
    世界市場3.8兆円、日本アニメは転換点へ――成長を支え…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 8
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 9
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 10
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story